会社の上司や先輩にこんなことを言われたことはないだろうか?
「若いうちはあれこれ考えず、目の前の仕事をこなせ。その積み重ねによって未来が見えてくる」
この言葉の真意は、おそらくこうだ。
「明確にやりたいことがないなら、目の前の仕事に集中して取り組み、経験を重ねることで、やりたいことが見えてくることがある」
おそらくこれはまちがっていないが、仕事は人生の充実度に大きく関わってくる。本人が自主的に会社の外に視野を広げて、自分の可能性を探る試み、つまり「やりたいことを見つける試み」が否定されるべきではない。
「会社に依存しない生き方」はどのように手に入るのか
私たちは「学ぶこと」によって、自分らしい働き方、生き方を見つけ、実践することができるのではないでしょうか。
『みんなのアンラーニング論 組織に縛られずに働く、生きる、学ぶ』(翔泳社刊)はこんな問いを投げかけ、「働くこと、生きること」と「学ぶこと」の関係を考察する。
これまで社会人の「学び」は社業の知識を深めたり、目の前の目標達成のためという意味合いが強かった。ただ、学びは自分の可能性を広げるものでもある。ならば学びの内容は会社に関係がなくてもいいはずだ。
「会社に依存しない生き方」や「自由なワークスタイル・ライフスタイル」が注目を集める昨今だが、どちらも会社や仕事うんぬんではなく「自分の人生をいかに実りあるものにしていくか」を最優先に、自分の進みたい方向を考えながら学んだ先にある。会社や上司の指示通りに学んでいればよかった時代は終わりつつあり、仕事や働き方を含めた人生の指針を自分で模索し、主体的に自分を進化させ続けることが求められているのだ。
会社から一歩出ると自分の可能性が見えてくる?
会社員としてのレールの延長上にない学びを重ねることで、自分にとって快適な生き方、働き方を見出した人がいる。本書で紹介されているソニックガーデン代表取締役の倉貫義人さんである。
もともとは大手システム会社でプログラマーをしていた倉貫さんは、ソフトウェア納品後の改善に柔軟に対応できる方法を探して「アジャイル開発」というキーワードに出合った。今ではシステムやソフトウェア開発で主流になっている手法だが、当時は社内でそれを学ぶのは難しかったという。
そこで倉貫さんが考えたのは、会社から離れて外の世界を見てみることと、ブログを通して情報発信をすることだった。社外の勉強会に参加し、様々な経歴や経験を持つ人と交流することで、アジャイル開発を知る人と議論できたばかりか、キャリア全体に関わる気づきも得られた。また、仕事での体験談を発信すると、共感してくれる人からアクセスがあり、新たな出会いが生まれることも。こうした活動を続けるうちに、会社が敷いてくれた路線を走り続ける以外の選択肢が、現実感を伴ってきたという。
こうして起業するにいたった倉貫さんだが、「遊ぶように働く」をキーワードにユニークなワークスタイルを確立している。会社員時代、管理職になってプログラミングの現場を離れることに抵抗があり、人事異動など会社の都合で気に入っていたチームから引き離されてしまうことに割り切れない気持ちを抱えていた倉貫さんにとって、会社経営は「仲間と好きな仕事を続けていきたい」という願いを叶えるための手段。だから企業規模の拡大も株式上場も目指していない。
仕事が早く終わっても、次の仕事を振らず「お金にならなくてもいいから、好きなプロジェクトに取り組んでいい時間」を付与している。給与面で差はつきにくいが、仕事が早く終われば好きなことができるため仕事へのモチベーションは上がり、好きな仕事の中から事業化するものが生まれる。「遊ぶように働く」ことが会社に好循環をもたらしているのだ。
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倉貫さんが会社員時代に思い立った社外の世界を知る取組みも、情報発信も、広い意味での「学び」だ。倉貫さんの今のワークスタイルは、上から課されたものではない主体的な学びの先にある。
本書には他にも独自のワークスタイル、ライフスタイルを手に入れた人のエピソードが紹介されているが、共通するのは、自分で自分の価値観を揺さぶろうとするかのように、未知のものに触れ、未知の場所に飛び込んでいること。これこそがこれからの学びに必要なのだろう。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。