一方で、オレはネットで思い切り稼がせてもらっているのも事実。「インターネットの実情に詳しくて、ネット文脈を理解している人」という扱いで、さまざまな仕事のオファーをいただいています。その意味では、もちろんネットに感謝もしているんですけどね。
●階級社会が出来上がっているネットの世界
── ここで先ほど挙がった「ネット階級社会」の話題について、あらためて触れたいのですが、ここ数年、ソーシャルメディアを用いたパーソナルブランディングが話題になっています。これも、階級社会化を加速する一因となったのでしょうか?
中川 だと思います。元も子もない言い方をしてしまえば、ネットは非情なまでに優勝劣敗の世界なんです。パーソナルブランディングでアナタのプレゼンスが上がる、ネットを通じて幸せになれる、なんてことを軽々しく口にするようなヤツは詐欺師ですよ。
例えば、パーソナルブランディング、ノマド界隈のアイコンとして注目され、フリーランス志向を持つ人の教祖みたいな存在感を放っている安藤美冬氏ですが、もともとは慶応大を出て、新卒で集英社に入ったようなエリートですからね。それにもし、オレが美人の“中川淳子”さんだったとしたら、おそらく今とは比べものにならないくらい売れているはず。
何が言いたいかというと、ネットで有名になる人は、とどのつまりはリアルでも注目されるような人でしかないんですよ。実務家として実績を積み上げてプロの知見を豊富に備えている人、学識経験者、芸能人、生まれも育ちも素晴らしくて知性も高いエリート、誰もが振り返るようなイケメンや美人……そういった人がネット文脈を踏まえてうまく発信すれば、運とタイミングに恵まれたら、注目されるかもしれない。それにしても「注目される可能性が凡人より多少高い」程度の話でしかないんです。
それを「ネットを使えばアナタも有名になれる」みたいに喧伝するなんて、どれだけ不誠実か。ネットを活用すれば誰でも一発逆転できる、みたいなことは雲をつかむようなうさん臭い話だととらえるのが正しい。
よく考えてみてください。中身はスカスカのくせに、テクニックや手法だけで自分を盛れる(編註:誇張する)だけ盛りまくって、運良くパーソナルブランディングに成功したとしましょう。そうして一時的に注目を浴びたとしても、所詮、中身はカラッポなのですから、遅かれ早かれボロが出ます。いざメッキが剥がれたら悲惨でしょうね。支持者からアンチに転じた人たちに、集中攻撃をされることは間違いない。
●パーソナルブランディングは、ネットではなく現実社会で
── では“勝者総取り”については?
中川 ネットでは、一度、強者の枠に入ってしまうと、さらに立場を強固にしていくような傾向が強い。プレゼンスが高いからこそ注目され、注目されるからますますプレゼンスが上がる、みたいな上向きのスパイラルです。金持ちのところにカネが集まって、ますます金持ちになっていく、みたいな構造と似ているかもしれない。有名というだけで有名人は信奉者から支持され、さらに有名になり、その立場や発言力を強固にしていくような構図です。
そして、そのネット強者の枠に入れる人は、ネットユーザー全体の0.01%。それくらい確率の低いものなんです。いやもっと少ないかもしれない。1万人に1人……0.001%くらいかも。これって、見方によっては芸能人になるより難しいですよ。
運にも実力にも恵まれた選ばれし者が、「誰でも自分のようになれる」「パーソナルブランディングを意識すれば、ネットでのプレゼンスが上がり、自然と仕事のオファーが入るようになる」「フリーランスとして独り立ちできる」なんて甘言で弱者を翻弄し、結果的には搾取していくんです。有名になれる、稼げる、成功する……なんて安易に煽ることで信者を量産し、彼らをカモにしていく。これほど理不尽なことはないでしょう。これぞ、まさしく階級社会です。圧倒的な強者と膨大な数の弱者。その構図を見ていると、ある種の絶望感を覚えずにはいられません。