フォロワー数15万人を超える人気TikToker『お金持ちの息子』が、若い世代を中心に注目を浴びている。
お金持ちの息子の生活を動画で発信するのは、麻生拓海氏(19)だ。そのアカウント名通り、父は東京美容外科統括院長の麻生泰医師であり、日本でも屈指のお金持ちである。動画では、父のお金で豪遊する姿ばかりで“苦労知らずのボンボン”といった顔を見せているが、その素顔はまったくの真逆だった。
弟を守る兄
両親の離婚後、拓海氏は3歳下の弟と共に母の下で育った。拓海氏は、母子家庭の暮らしは決して裕福ではなかったと、当時を振り返る。
「ごはんがない日や、電気が止まったこともありました。普段は母が仕事で忙しく、帰ってこられない日もあったので、僕はもの心ついた頃から“弟を守らなければ”という気持ちがありました」
弟と2人で留守番をするときは、レゴで遊んだ。
「レゴでお城をつくるのが好きでした。2人でレゴをしていると時間があっという間に過ぎていって、寂しいと思うこともありませんでした」
父である麻生医師とは定期的に面会をしていたが、幼い頃は会うたびに少し緊張したという。
「子供の頃、たまに会う父は、とても背が高くスキンヘッドで迫力があるというか、少し近寄りがたいイメージでした。でも、会うたびにいろいろな所へ連れて行ってくれるので、中学生の頃は毎回、会うのが楽しみでした」
拓海氏が麻生医師の下で暮らすようになったきっかけについて、父の麻生医師は自身のSNSなどで、拓海氏がゲームにハマり引きこもりになったことが原因だと公表しているが、実は拓海氏がゲームにハマっていったのには理由があるという。
イジメを乗り越えて
「実は、小学生1年生から東京に来る前の高校までの間、上手く学校に馴染めず、イジメにあったこともあり、悩んだ時期もありました」
母親にイジメのことを話すと学校に相談したが、イジメは無くならなかった。
「当時は、イジメがつらいという気持ちと同じくらいに、『イジメられる原因は自分にもあるのかもしれない』という気持ちがありました。どちらかと言えば、僕は大人しいほうだったので、からかい易かったのかもしれません」
学校へ行かない間、好きだったゲームをして過ごすうちにのめり込んでいった。
「ゲームにはとても自信がありました。『レインボーシックス シージ』という大会で日本3位になりました。オンラインゲームで他のゲーマーと交流もあり、僕的には将来はゲーマーとしてプロになろうと考えていました」
イジメに悩み、学校生活よりも自分の部屋でゲームを行う日々に安息を感じた拓海氏の気持ちは理解できる。しかし、そんな拓海氏を心配した両親は相談し、父と一緒に暮らすことが決まった。
「東京に来たことでイジメから解放されて、新しく学校生活を始めることができました。東京での高校生活は楽しかったですね」
勉強ゼロから歯学部入学
「大阪では不登校気味だったこともあり、勉強はまったくというほどしていませんでした。東京に来て、父が大学受験のことも心配して、教科ごとに家庭教師をつけてくれましたが、勉強の習慣がなかったので、すぐにトイレに行って勉強から逃げようとしたりしていました。今思い返すと、先生方は出来の悪い生徒を持って大変だったと思います」
家庭教師は、YouTubeの人気番組『令和の虎』で人気の美容外科医、細井龍氏が運営する予備校からの派遣だったが、拓海氏が特に信頼を寄せたのは細井氏本人で、泊まり込みで勉強を教わることもあったという。
「それまでの僕の価値観を細井先生に一変され、勉強へ向かう気持ちになれました。ただ、歯学部入試を目指すにはスタートが遅かったので、受験は厳しかったです。それでもなんとか歯学部に入学できたのは、父が入試についてもリサーチしてくれたおかげで、いわば“戦略勝ち”でした。今も父には感謝しかありません」
人気TikTokerになって、すべてが変わった
「東京に住み始めて最初の頃は、まだゲームをしていて自分から外に出ることは少なかったので、父や父の秘書さんやスタッフの皆さんが、僕を買い物や食事に連れ出してくれました。だんだんと外へ出ることが楽しくなり、人とのコミュニケーションも増えていきました。僕自身も、新しい自分に変われるような気持ちになっていました」
ちょうどその頃、人気TikTokerが話題になっており、周りからTikTokを勧められたことがきっかけで投稿を始めた。
「最初は、人気があったTikTokerの真似から始めました。『お金持ちの息子』は、人気TikToker『お金持ちの付き人』を真似しました。バズった最初は『パクリだ』という批判もありましたが、入り口は真似でも自分のものにできれば強みに変わると僕は思っています」
拓海氏が言うように、開始当初は真似ではあったが、自分の正体を明かさずに投稿することで見る人の興味をそそり、関心を集めた。お金持ちの息子キャラには、もう一つ大きな狙いがあった。
「TikTokをやる目的の一つに『父のためになりたい』という思いがありました。最近では、美容クリニックはかなりの勢いで増えており、その競争は激しいのが現状です。その中で、僕のTikTokが父の経営する東京美容外科になんらかのプラスになるようにしたいと考えました」
その思いでつくった動画が、『オヤジ、オヤジ』で始まる親子の掛け合いだった。
「僕が『オヤジ、オヤジ』と呼びかけ、能天気な発言を父にすることで、『立派な父vs.ダメ息子』という構図が出来上がり、父の評価が上がると考えました。自分が狙った以上に、そのイメージが強く付いてしまった感じもしますが、結果的によかったと思っています」
『お金持ちの息子』としての発信に、そういった戦略があったとは驚きだ。現在は、新たな発信をしていくために思案中だという。
「TikTokerとして人気が出てから、高校時代に僕をイジメていた同級生たちから連絡がありました。『お前すごいじゃん!』そう言われて、嬉しかったです。今は良い友人で、大阪に帰ると一緒に食事に行ったりします」
自分をイジメた人に対して寛容になれるのは、拓海氏ならではの思想がある。
「まだまだ経験の浅い僕ですが、過去のネガティブな思いにとらわれていると、未来が開かれないと感じています。仏教で『因果倶時』という言葉がありますが、一歩を踏み出すことが大事だと思っています」
因果倶時とは、仏教の言葉で単純に言えば「原因があって結果がある」という意味になる。言い換えれば、現在の瞬間での自分自身の心が未来を決めていくという、深い意味があるという。
「僕のTikTokを見た人が、『自分もやってみよう』というきっかけになればという願いがあります」
お金持ちの息子の素顔は、優しく思慮深い親思いの息子だった。イジメを乗り越えた強さがあるからこそ、お金持ちの息子を演じることができるのだろう。その強さが多くのフォロワーに支持される理由かもしれない。
(文=道明寺美清/フリーライター)