「いじめ」というと子どもの世界のことだと思いがちだが、大人の世界にもハラスメントという名のいじめはある。その舞台は主に「会社」である。ここ数年を見ても、トヨタ自動車や三菱電機といった誰もが知る有名企業で職場でのいじめが問題になったことは記憶に新しい。
2019年にパワハラ防止法が成立するなど、職場でのハラスメントを減らす試みは徐々ではあるが広まってきているが、職場でのいじめは必ずしも上司から部下にされるものではなく、同僚や部下ですら加害者になりうる。そこにはどのような背景があるのだろうか。
「大人のいじめ」が起きやすい職場がある
この問題を扱った『大人のいじめ』(講談社刊)の著者・坂倉昇平氏は、ポッドキャスト「聴く講談社現代新書」に出演した際のインタビューで、いじめが起きやすい職場として「労働集約型」であり「いいサービスを提供するよりも、低賃金で長時間働くことで会社に利益をもたらす職場」をあげ、広義でのサービス業がそういう職場になりやすい点、医療福祉分野が特に目立つ点を指摘している。
職場環境とハラスメントやいじめはある意味セットになっている。企業が現場にお金をかけずに利益を追求すると、重大な事故が起きないギリギリまでリソースを削って現場を回す方向に必然的に向かう。
もちろん、こうした体質について問題提起する従業員も中にはいる。しかし、そういう人こそ上司からのハラスメントの標的になりやすい。「あいつはこの職場のことを何もわかっていないからいてもらっては困る(あるいは、この職場の価値観を教えてやらないといけない)」、という理屈だ。
出世した途端にハラスメントに走る豹変上司
こうした上司はいかにも横暴で陰湿に思えるが、他人事ではない。坂倉氏によると、もともとは優しい人なのだが、指導する立場になってからハラスメントやいじめに走るようになる人は決して珍しくはないのだという。
マネジメントに求められる「視点の高さ」とは、「会社側の理屈を理解すること」でもある。先述のような「ギリギリまでコストカットをしてようやく利益が出る」というような会社や職場だった場合、上司はそれを達成するために「部下を厳しく管理して働かせるしかない」という思考になりやすいのだ。
そして「会社側も、ハラスメントになるかならないかのところまで厳しく現場をコントロールしてくれる人がいるとありがたかったりする」(坂倉氏)点が、問題の根の深さを物語っている。ハラスメントやいじめは個人の気質というよりも会社の風土や文化から生まれるといえ、会社はこれらを防止するどころか加担しているケースも多々あるからである。
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では、もし自分がハラスメントやいじめを受けたらどうすべきか?
インタビューの最後で坂倉氏は「上司に相談することを通して会社に調査を依頼しても、きちんとやってくれないケースはすごく多い。社内で相談する前に自分で証拠を集めるということをやってほしい」とした。
そのためにも「会社を辞めるというよりは、まずは休むこと」を提案した。辞めてしまうと自分が受けた被害について会社が取り合ってくれにくくなり、同時にハラスメントの証拠も入手しにくくなる。経済的に苦しくなることで精神面でのダメージも深くなりがちだ。それならば、ゆっくり休みながら対策を考えるのが得策だ。
「低賃金で長時間働かせて、利益追求のためなら何をやってもいいという文化がある職場がハラスメントの温床になっているケースが多いのですが、今の日本はどこにそういう職場があるかわかりません。もし不運にもそんな職場に当たってしまったら、その職場の価値観が全てではないこと、そしておかしいと思ったら声を上げていいんだということを覚えておいていただきたいです」(坂倉氏)
坂倉氏へのインタビュー全編はポッドキャスト「聴く講談社現代新書」で聴くことができる。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。