ノーベル化学賞に輝いた研究は、農業や医薬、電子・電子機器など、さまざまな分野で利用され、実は私たちの生活の身近な存在でもある。しかし、世界のトップレベルの研究者が行なっているその研究内容は、一般人に理解するのは難しい。
『ノーベル化学賞に輝いた研究のすごいところをわかりやすく説明してみた』(山口悟著、ベレ出版刊)では、近年の日本人受賞者の研究を中心に取り上げ、ノーベル化学賞を受賞したさまざまな研究の内容やどんなところが画期的な発見だったのかなどをわかりやすく解説する。著者の山口悟氏は薬剤師であり、製薬会社を経て東京薬科大学薬学部に勤務している。
ノーベル化学賞「リチウムイオン電池」が解決した課題
スマートフォンやノートパソコンに欠かせないリチウムイオン電池。この電池の優れているところは、小さくて軽いのに大きなパワーを持ち、かつ充電可能であるところである。電気自動車のバッテリーに使われていることが知られているが、ガソリンと電気で走るハイブリット車にも使われている。
2019年のノーベル化学賞は、このリチウムイオン電池を開発した功績により、ジョン・グッドナイフ氏、スタンリー・ウィッティンガム氏、吉野彰氏に授与された。
リチウムイオン電池より以前に開発されたリチウム電池は、それまでの電池と比較してもとても大きいパワーをもっていたが、充電はできなかった。リチウムイオン電池はこの「充電」という課題を解決したという画期性がある。1980年代、このリチウムイオン電池の開発の中心にいたのが、旭化成の吉野彰氏だった。
1836年に発明され、初めて産業的に利用されたダニエル電池やリチウム電池は、充電や放電の際に、電極の金属が溶け出したり、電極に金属がくっついたりしていた。しかし、リチウムイオン電池の電極は、そのような大きな変化が起こるわけではなく、電極の内部でのみ変化が起こるようにつくられている。リチウムイオン電池はこのおかげで、効率よく充電と放電ができるようになり、電池の寿命を大幅に伸ばすことができるようになったという。
リチウムイオン電池は、1990年頃に実用化され、市場を拡大していき、現在の私たちの生活にはすっかり欠かせないものになった。充電という課題を解決したことで汎用性が大きく高まったわけだ。
リチウムイオン電池だけではない。ノーベル化学賞を受賞した研究が身近なところで活用されていることを知ると、親近感もわくだろう。化学がどのように生活に結びついているのか。本書から化学の世界を学んでみてはどうだろう。(T・N/新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。