夕飯を食べている一般家庭にアポなし突撃する『突撃!隣の晩ごはん』でおなじみのヨネスケが、ついに地球外生命体に突撃する! そんな奇想天外な痛快ストーリーが描かれる映画『突撃!隣のUFO』が2月3日に公開される。しかし、“日本一の不法侵入者”を自称するにも関わらず、プライベートでは「実は1人じゃ喫茶店にも入れない」という意外な一面も。落語芸術協会の参事を務める落語家・桂米助でもあり、ユーチューバーとしても活躍する彼に知られざる“突撃の舞台裏”を語ってもらった。
――74歳にして初の主演映画だそうですね。
いろんなことをやってきたけど、本当はドラマとか映画は嫌なんだよ(笑)。
―でも、人気ドラマ『陸王』にも出演されてましたよね。
その『陸王』(2017年放送)にちょい役で出た時に、「申し訳ございません! なんとかかんとか…」ってセリフだけなのにテイク9まで行っちゃったんだよ(笑)。落語だったら、稽古で何回も語り込むし、失敗してもてめえの責任だろ。でも、ドラマや映画は俺のたった一言の失敗で撮り直しになっちゃう。相手役が長セリフだったら余計に責任を感じちゃうんだよ。だから、今回のオファーが来た時に「絶対嫌だよ!」って言ったんだ。でも、この映画は『突撃!隣の晩ごはん』の一種のパロディーだからね。俺じゃなきゃダメなんだろうし、監督から「セリフを少なくしますし、カンペも出しますから」って言われてさ。ほとんど話さない寡黙な男役だっていうから、「それなら…」ってOKしたんだよ。
――ちなみに初主演の手応えや感想は。
よく鶴瓶さん(笑福亭鶴瓶)と飲みに行くんだけどさ。鶴瓶さんがドラマで耳が聞こえない役(2022年放送、NHK『しずかちゃんとパパ』)をやった時なんか、手話まで全部覚えてたんだよ。立派だよな。それと比べちゃったら、もう恥ずかしくってさ(笑)。噺家仲間の小遊三さん(三遊亭小遊三)とか好楽兄さん(三遊亭好楽)にも、DVDを渡すのを迷っているくらいなんだ。
――師匠にも恥ずかしいことがあるんですね。ズカズカ土足で踏み込むイメージだったので。
普段はそんなことしないよ(笑)。実は1人じゃ喫茶店にも入れないんだよ。
――どういうことですか?
喫茶店のドアを開けるとさ、お店の人もお客も誰が入ってきたのか見るでしょ。あの視線が嫌なんだよ。だから絶対に1人じゃ飲みに行けないし、ご飯も食べれないんだよ。1人の時はいつもコンビニ飯で済ましているんだ。
――実は人見知りなんですか?
まあ、そうかな。仕事だったらできるんだけどね。
――『突撃!隣の晩ごはん』って、裏では結構断られていたそうですね。それを知って、師匠の鋼のメンタルに憧れていたのですが、びっくりです。
謝り方が上手いだけなんだよ(笑)。実は3分の1くらいは撮影NGでね。家に突撃したら、そこの親父に怒鳴られるなんてことはしょっちゅうだったよ。でも、ADに謝らせると「撮りに来てやったのに…」って顔で上から目線だから、余計に怒られる。だから、いつも俺が「申し訳ございませんでしたー!」って土下座してたんだ。30年やっていて、お怒りが収まらずにテレビ局まで文句が来たことは1回もなかった。そもそも不法侵入なんだけど、訴えられたこともなかったね。
――謝罪のプロなんですね。
18歳で落語の世界に入って、師匠に怒られてばかりだったからな。みんな言っていることが違う朝令暮改の世界だし、他の師匠に怒られることもあるから、謝り方が下手だったらもう大変だよ。噺家はみんな謝り方が上手いんだ(笑)。
――YouTubeでは落語家さんに突撃する『突撃!ヨネスケちゃんねる【落語と晩ごはん】』もやっていますね。
普通にやっても面白くないからね(笑)。2020年に始めた頃は『突撃!隣の晩ごはん』が終わっちゃって、YouTubeでご飯屋さんに食べに行くとかやってみたんだけど、数字が伸びなくてさ(笑)。最近は野球選手が野球のYouTubeをやったりするから、俺も一種の落語専門チャンネルをやってみようと思って。そこで若手を紹介してあげたくてね。今は前座よりも真打ちの方が多いんだよ。落語の世界も少子化で逆ピラミッドになっているからね。
――前座さんの方が少ないんですか?
そうなんだよ。長瀬智也と岡田准一の落語ドラマ『タイガー&ドラゴン』(2002年放送)を見て入門してきた年代のやつらが真打ちになっているけど、今は前座がいないんだよ。前座のうちはいろいろな所に呼ばれてお金は入るけど、2つ目になった途端にパタッと仕事がなくなるし、お年玉ももらえない。それを何とかしなきゃって思っているんだ。
――師匠のYouTubeは大物師匠だけでなく若手に突撃する回や、若手と一緒に落語界の派閥を解説する回などもすごく面白いです。
YouTubeをやって一番良かったのは、若手と話ができるようになったこと。昔は自分の出番が終わったら、「おう! お先に」って帰ってたから、若手は俺のことを怖い師匠だと思ってたみたいなんだけどさ。YouTubeをやり出したら、「実は優しいんですね」って言うんだ(笑)。落語は上下関係が厳しい世界だから、なかなか下からは話ができないんだよ。やっぱり上から降りていくことも必要だね。今の若手が作る新作落語は、英語が出てきたりして面白いんだ。やっぱり15分、20分の中に笑ったり、悲しかったり、腹立ったり、恨んだりが詰まっているのは落語くらいしかないんじゃねえかな。YouTubeのおかげで、それが分かってプラスに生きられてます。
――映画では宇宙人に突撃していましたが、今後突撃してみたい人はいますか?
やっぱり大谷翔平だな。俺は野球が大好きで、野球落語をやるくらいだからね。イチローくらいまではよく知っているけど、大谷は現役だからな。突撃してみたら面白いよね。
――最後に主演映画のアピールをお願いします。
主演だから余計に恥ずかしいんだけどね。まあ、時間があったら見てください。以上です(笑)。
(構成=中野龍/フリーランスライター)