そこで頼りになるのは信用金庫です。信用金庫は地域のネットワークが太く、いろいろな人を紹介してくれますし、担当者の異動が一定のエリア内なので、担当者が替わっても関係がスムーズに引き継がれます。だから、若い時から信用金庫に毎月積み立てをして、“信頼残高”を高めておくことをお勧めしています。
●売りたくない商品を売る銀行員
–本書には「預金者の資産は銀行の負債で、銀行の資産は預金者の負債」という記述がありますが、この現実を一般の人々は理解できていないように思えます。
菅井 銀行が預金者の資産形成を考えているなら、カードローンを販売するはずがありません。積立預金を販売すべきですが、国の低金利政策以降、積立預金は利息が発生するだけで儲からないので、積極的に販売しなくなりました。
しかし銀行にはキャンペーン商品の販売ノルマがあって、毎日、支店には前日の支店別の販売成績ランキングが届きます。投資信託などは販売手数料と信託報酬という二重のコストがお客様にかかるので、本当は売りたくないと思っている銀行員がたくさんいます。
銀行員には真面目な性格の人が多く、相当なストレスを抱えてしまう。カードローンなどはお客様の負債になることがわかっていても、自分の部下を昇進させたり、ボーナスを増やしてあげるには売らなければならないのが銀行の現実です。
–銀行が主催する投資セミナーには、男女問わず会社勤めをしている人々が数多く参加していますが、普段仕事をしながら株などの投資を行うことは勧められますか?
菅井 会社勤務の人は、株やFXなどの相場に手を出すべきではありません。株やFXはパチンコと同じであり、勤務時間中に相場をチェックすることは、勤務時間中にパチンコを打っているようなものです。
私は銀行員時代に多くの投資家を見てきましたが、株で儲けた人はひとりもいませんでした。ある銘柄で儲かっても、その儲けを別の銘柄に注ぎ込んでしまう。そしてやめられなくなって、必ずどこかでつまずいてしまうのです。私が見てきた投資家たちの場合、トータルの収支は全員が赤字でした。
新入行員時代、ある上場企業の役員夫人はさまざまな株式銘柄を売買されていて、私は毎月4万円の積立預金を受け取りに訪問していました。訪問を開始して2年が経過した頃に彼女から「菅井さん、積立預金がいちばん良かった。これだけにしておけばよかった」と、しみじみ言われました。印象深かったですね。
–金融商品を購入する場合、儲けるのではなく損をしないことを最優先すべきということでしょうか。
菅井 その通りです。投資以前に収入マイナス支出が常にプラスであることが、幸せにつながることに気づくべきです。銀行や証券会社などが開催する投資セミナーで説明される内容はあくまで売り手の論理であり、大手金融機関だからといって売り手のセールストークを鵜呑みにしてはいけません。それより、見栄を満たすための無駄な支出をカットし、地道に毎月3万円でも4万円でも積み立てたほうが、確実に幸せになります。
●銀行や信用金庫が信頼する人とは?
–銀行は住宅ローンなどの個人ローンの与信について、判断はどのように行っているのでしょうか?
菅井 堅実な人であれば年収の2割を貯蓄できるというのが銀行の見解です。仮に年収400万円なら80万円を貯蓄できるはずで、この水準の年収が10年続けば800万円が貯まっていなければなりません。住宅ローンの頭金や子供の入学費用など一時的な出費を差し引いても、年収に応じて、保有しているべき金融資産の額の水準があるのです。計画的に貯蓄できない人は信用されません。例えば共稼ぎで子供がいなくて、家が賃貸なのに、40歳になっても貯金がほとんどないとしたら、どれほどの浪費家なのかと判断されてしまいます。