深夜残業、早朝勤務、強烈なノルマ圧力…人によって感じ方は違うかもしれないが、「自分の会社はブラック企業ではないのか?」と思うほど、働いている、働かされていると感じている人は少なくないのではないだろうか。
『ここで辞めたらただの負け犬! ブラック企業で「修行」した男の日常』(楯岡悟朗/著、KADOKAWA 中経出版/刊)では、「3年で仕事を覚える」と決めて、ブラック企業で泣きながら、死にそうになりながら、がまんにがまんを重ねたビジネスマンの笑って泣ける日常が描かれている。
著者の楯岡氏は、システム開発会社、デザイン会社を経て、28歳のときに、妻の両親が経営する町の不動産会社を継ぐことを決意する。修業のため営業未経験で入社した大手不動産会社は、有名なブラック企業。長時間労働と月に数回の少ない休日、過酷なノルマ追及圧力と人格否定にまで及ぶ上司からの罵詈雑言により、中途社員の8割が数年で退社するほどの厳しさだった。心身ともにボロボロになり、会社を辞めることばかり考える日々を送るが、「不動産の仕事を覚えるまでの辛抱だ」とゴールを決め、やがて最短で役職者に昇進。表彰式常連のトップ営業マンになる。
現在は、当初の予定通り、妻の両親が経営するきねや不動産株式会社に勤務し、経営にも参画している。
怒鳴られ蹴られ小突き回されながらも、ブラック企業から学んだことも多いと楯岡氏はいう。
例えば、入社時、所長から「靴の底をどれだけ短期間ですり減らし、どれだけ靴をダメにしたかで、結果が違ってくるんだ!」と言われ、不動産業も営業もはじめての楯岡氏は、そのあまりのどぎつさにドン引きした。しかし、それなりに経験とキャリアを積んできたとき、所長の言わんとしていることが楯岡氏なりに解釈できるようになる。「積極的にお客さまのために時間を使え」ということなのだ。
不動産の取引では交渉ごとが当たり前の仕事。買い手からの金額交渉があった際、担当者と売主との間に人間関係が築けているかどうかで、交渉結果は大きく左右される場合が多い。それが、たとえ売主が遠方に住んでいるような案件でも積極的に会いに行くことが重要となる。楯岡氏は遠ければ、遠いほど、お客様からの信頼を得る大きなチャンスと捉え、積極的に会いに行った。しかも要件が小さければ小さいほどより効果は高い。
お客さまとの接触回数を増やしてもらう、好きになってもらうのだ。遠方だと「ついで仕事」をすることはできないが、お客さまから強い信頼を寄せられるためには、「ついでがない仕事」も必要だという。
今はネットで会社のことを調べることはできる。しかし、実際に入ってみないと、その実態や自分に合うかどうかわからないことは多い。もし、ブラック企業だといわれる会社だったなら、そこで働くモチベーションをどう作るか、本書から学ぶことができる。