「リブセンス」「シーラカンス食堂」に学ぶ、雇われない生き方
起業に関して、両親は反対だったという。安定した大企業や公務員に就職してほしいと思う両親の気持ちもわかる。しかし、現実を見ると、必ずしも大企業に入ることで安定した人生が送れるとは限らない。そもそも安定した人生とは何かという議論はあるだろうが、それがリストラされずに一定の給料が得られるということだとすれば、大企業に入ったからといって定年まで勤められることは保証されていない。昨今の大手電機メーカーのリストラを見れば明らかだ。
大胆な言い方をすれば、親が反対するような進路にこそ、活路が見いだされるかもしれない。なぜなら、社会の価値観は大きく変化しているし、今後はもっと変わるからだ。武士が「失業」したように、幕末から明治維新で起こったようなことがあり得るからだ。
12年7月、国家戦略会議は、将来の「40歳定年」を打ち出した。賛否両論はあるが、雇用の流動化を促進する狙いがあるようだ。私事で恐縮だが、筆者も40歳で「選択定年」という制度を使って朝日新聞を退社して、フリージャーナリストに転じた。入社した頃はまさか40歳で辞めるとは考えていなかったし、8年前、辞めることを公表した時には「辞めて食っていけるはずがない」と言われた。しかし、苦しいながらも、大新聞の名刺を捨ててもなんとか食べていけている。
筆者は、自動車産業などのもの造りの分野で専門性のある記者として認められ、「社内失業」しないように頑張ろうと、人脈形成や知識の習得などの面で30代半ばから意識して活動してきたことが奏功した。
会社を早く辞めろと言っているわけではないし、職業によっては転職に不向きなものもあると思う。長く一つの会社で働いたほうがいいケースもある。
しかし、発想が勝負の仕事は、どこで働こうが一定の成果を出せるくらいの覚悟をもって臨む時代だ。たとえば、自動車メーカーのデザイナーや技術者、広報、経営企画などの仕事はそうした部類に入るのではないか。広報のプロであればPR会社で働くこともできるし、コンサルタントとして独立もできるだろう。
たとえ大企業に入社しても、いずれは雇われない生き方を目指すくらいの覚悟をもって仕事に臨まないと、プロとしては認められず、その会社内でも居場所がなくなってしまうほどの厳しい時代になっているし、今後はますますその傾向が加速するのではないか。
雇われない生き方を目指す若者は、時代の先端を走っている。
(文=井上久男/ジャーナリスト)