(2)厳しい内容の契約書案を突きつける
本作では、言葉にするのもはばかられるような激しいプレイをアナに迫るシーンがある。日本で契約書を作成する場合、一般的には相手が受け入れられる範囲を想定しつつ、自分の要望を盛り込む。だが、最大の利益を得るためには、できる限り相手にとって厳しい条件を複数突きつけるべきだ。これは「過大要求法(ドア・イン・ザ・フェイス)」と呼ばれる手法で、絶対に相手が許容できない内容を提示して一度断らせる。その断ったことに対する罪悪感を利用して、譲歩案で契約を締結するものだ。つまり、過大に要求することで、本来自分が求めている結果を得ることができるといえる。
(3)意外性のあるアメを用意する
本作で、アナはSM部屋を見て最初はショックを受けるが、その対価として得られるメリットをグレイは提供する。アナが住むための豪勢な部屋を見せ、自家用ヘリで送迎をし、高級車をプレゼント、遊覧飛行のデートをするなど、アナの心を揺さぶるサプライズを立て続けに用意している。このように、意外性のある利益を提供することで関心をメリットに向け、デメリットから目をそらさせる工夫も効果的だ。
(4)スピード感を持つ
契約を取り交わすコツとしては、相手の想定より早いスピード感でプレッシャーをかけるということだ。どんな会社においても契約書の審議には時間がかかる。しかし、相手方が冷静に検討する時間を長く与えることは望ましくない。時には、なるべく早く契約を結ぶようプレッシャーを与えることも重要だ。本作でグレイは、メール、対面など、直接・間接さまざまな手法で契約締結へのプレッシャーをかけ、最終的には大学の卒業式に出向いてアナをつかまえて契約を迫る。実際にここまでしてしまうと、脅迫行為とも取られかねず、契約できないばかりか警察沙汰にもなり得るので注意が必要だ。ともあれ、期限を設けて、メリットを享受するためには期限内に契約を結ぶようにとプレッシャーをかけることは必須といえる。
このように、エロスを楽しむ映画でも、ビジネスに置き換えて教養として役立つことがある。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』は、その典型例といえる。
(文=和洲次郎/ライター)