逆だよね〜(「豊田自動車HP」より)
4月、同大統領はワシントン州エバレットにある、ボ-イング社の航空機工場をわざわざ訪問し、「米国製造業の復活」を高らかにアッピ-ルし、14年までに自国の貿易輸出を倍増する計画を打ち上げた。
一度海外移転したり、衰退した製造業を復活させるのは容易なことではないが、どのようにそれを実現しようとしているのか?
意外にも、その切り札として今米国で注目されているのが、”日本のお家芸”とも呼ばれた、日本製造業のカイゼン手法とリ-ン生産方式(=トヨタ生産方式)の導入である。これらは、製造現場において、社員全員が生産効率向上の知恵を出し合い、現場改善に取り組んだ結果生まれ、発展したものだが、今ではかつてほど注目されなくなった。ところが、米国では「ムダを省き、生産性を高め、競争力を強化する」実践的な手法として大いに注目を集めている。
それも、ボ-イング社(航空機)、GM社(自動車)、IBM(IT)、GE社(電機)といった大企業の製造工場だけでない。カリフォルニア州シリコンバレ-を中心としたIT業界やネット系ベンチャ-企業家の間では、カイゼンやリ-ン生産方式に学んだ「リ-ン・スタ-トアップ」と呼ばれるベンチャ-ビジネスのマネジメント手法が広まっている。リ-ン・スタ-トアップとは、米国のアントレプレナ-(起業家)/エリック・リ-スが提唱した考え方で、「短期間のうちに少ない資金で、無駄なく、スピ-ディにビジネスを立ち上げ、”小さく起業して大きく育てよう”」とするマネジメント手法だ。
また、日本の手法を学ぼうとする取り組みは、GEのような大企業の間でも進んでいる。例えば、同社が生んだ、高品質な生産プロセス管理を目指したマネジメント手法「シックスシグマ」と、日本企業の現場から生まれた「カイゼン手法」を組み合わせた、「リ-ン・シックスシグマ」だ。「リ-ンシグマ」とも呼ばれ、同社への導入/展開が試みられている。これは日米企業のいいとこ取りのような考え方ではあるが、いずれにしても米国企業は日本企業以上に、日本製造業の手法から必死に何かを学ぼうとしている。
その熱意や取り組みを見ると、日本製造業の現場におけるさまざまな優れた手法において、米国企業が日本企業を超える日が来るのではないか? とすら思える。これまで「経営戦略の米国企業」「現場改善の日本企業」といわれてきたが、これからは「経営戦略も現場改善も米国企業」となりかねない。
サービス業でもトヨタ式が大人気
米国でのカイゼンやリ-ン生産方式の導入は、何も製造業だけでなく、今や医療分野やホテル業界にまで広がっている。
医療分野ではカリフォルニア州スタンフォ-ド大学病院やバ-ジニア州バ-ジニア・メイソン・メディカルセンタ-のような大病院に導入され、ムダな経費の削減、管理業務の効率化、診療の質向上、病院経営の改革に大きな成果を上げている。また、ホテル業界ではニュ-ヨ-ク市プラザホテルやサンフランシスコ市フェアモントホテルなどで、客室係、フロント係、クロ-ク係などそれぞれ業務ごとにカイゼンチ-ムを組んで「ムダの排除」「作業改善」「業務効率化」に取り組み、大きな成果を上げている。
一方、日本企業が米国流のイノベ-ションや起業家精神を学び、自分のものにして大きな成果を上げたという成功事例は、きわめて少ない。特にイノ-ベションへの取り組みは、「日本経済の再生」「日本企業の復活の切り札」といわれながら、いまだに日本に根付いていない。「リスクを積極的に取って、新規事業にチャレンジしていこうとする精神が日本企業に少ない」とはよく指摘されるが、日米ビジネス事情に詳しい池田信夫アゴラ研究所所長は、ブログ上で次のような指摘をしている。
日本では戦後間もなく、ソニ-やホンダなど優れたベンチャ-企業が出現したが、それらの企業は成功して大企業となり、いまや”老いた企業”になってしまった。ソニ-、パナソニック、ホンダ、トヨタの社員の平均年齢はみんな40歳以上、そのうえ不景気もあって新卒採用を減らしているので、平均年齢はこれからますますアップする。老いた企業からベンチャ-企業や起業家精神が生まれるのは難しい。米国ではベンチャ-が次々に生まれ、あのアップル社でさえ、もはやベンチャ-企業といえない。なぜ日本にベンチャ-企業が生まれないか? それは、日本では若い世代にビジネスチャンスや成長機会が十分与えられていないからだ。とくに、最近は若者のやる気やチャレンジ精神を潰す風潮があまりに顕著である。その元凶は、過去の成功体験に囚われ、現場を無視した意思決定を行っている経営トップや管理層の存在である。
日本はこの閉塞状況をどう突破するか? その突破力が日本にいま求められている。とくに、やる気やチャレンジ精神があり、有能な若い人たちに、いかに多くのビジネスチャンスや成長機会を与えていくかが、日本再生のカギをにぎる。
(文=野口恒)