ティーネットはいま』(扶桑社新書)
そんな折、厚生労働省(以下、厚労省)が銀行界に委託し、生活保護の不正受給者に対する一斉調査を大規模に実施しようとしていることが話題となっている。調査は12月に実施される予定で、現在、厚労省と銀行界は調査実施に向けた準備を進めている。
生活保護法には第29条に「調査の嘱託及び報告の請求」という条文がある。同条文は、保護の実施機関または福祉事務所長は、保護の決定または実施のために、必要があるときは要保護者またはその扶養義務者の資産及び収入の状況につき、官公署に調査を嘱託し、または銀行、信託会社、要保護者若しくはその扶養義務者の雇主その他の関係人に、報告を求めることができる、としている。
先述の通り厚労省は、この第29条を掲げて、銀行界に対して生活保護者の資産調査を“一括”で実施するよう要請した。これに対して、当初、銀行界は個人情報保護上の観点、調査を実施する上でのコスト問題などで反発したが、全国銀行協会(以下、全銀協)と厚労省との調整の結果、調査実施要綱が固まった。
その内容は、各福祉事務所は、生活保護受給者の氏名(漢字・カナ)、性別、生年月日、住所を記入した書面(各福祉事務所の統一様式)に、生活保護受給者本人から徴収した同意書を添付の上、メガバンク、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行に対して、銀行が指定する本店・本部・センターなどに国内全店舗一括での照会を依頼する。信用金庫、信用組合については、別途、実施スキームを調整することになっている。
銀行は、福祉事務所から照会があった場合には、国内全店舗の口座の有無、口座があった場合には取引店及び調査時点の残高を調査し、回答するもの。肝心の調査対象者は、①生活保護の申請を行った者及び世帯②不正受給が疑われる者及び世帯―となっている。
問題は、「不正受給が疑われる者及び世帯」の基準、抜粋方法だろう。この点について、厚労省及び福祉事務所は明らかにしていない。一体、何をもって不正受給の疑いがあると判断するのだろうか。ある程度は、明確な基準が必要であろう。さもないと、各福祉事務所により、疑わしい者の判断基準がばらつく可能性があるのはまだしも、基準が明確でないにも関わらず、不正受給者と疑われたり、不正受給者のレッテルを貼られたりすれば、場合によっては人権侵害にもつながりかねない危険性を孕んでいる。