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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(6月第4週)

「東洋経済」ニトリタブーに斬りこむも今週は及び腰

post_320.jpg(右)「週刊ダイヤモンド 6/30号」
(左)「週刊東洋経済 6/30号」
こうすれば生活保護を受けることができる!?

「週刊ダイヤモンド 6/30号」の大特集は『生活保護 3.7兆円が日本を蝕む』というタイムリーな企画だ。お笑いタレントの河本準一の母親が受給していたことで注目を集めた生活保護制度。2011年、60年ぶりに過去最高を記録した受給者数は、今年3月210万人を突破。今年度の給付額は3.7兆円と、この5年で1兆円も膨らんでいる。

 その背景には、リーマンショックに伴う不況、高年齢での生活困窮者の増大、勤労意欲の低下、(お笑いタレントの事例のように)モラルの低下というさまざまな問題があるうえに、安定した「収入」が見込める生活保護受給者を狙ったNPO、政治団体や病院などの貧困ビジネスも横行する。

 さらに、申請後のチェックがゆるく、不正受給を摘発する仕組みは”ザル”で、二重受給や暴力団員も受給しかねない現状がある。いったん支給されれば、住民税などの税金や国民年金保険料も免除され、医療費も無料(公共交通機関が無料の自治体もある)。通常約30倍とされる都民住宅への抽選券は7枚もらえる……今の1億総ワーキングプア状態の日本にとってはこうした環境は憧れに映るかもしれない。

 かといって、日本の給付水準は高め(平均賃金との比率49%、OECD平均41%)だが、受給するためのハードルが高く(保護率が低い)、本来、わたるべきところには十分にわたっているとはいえない現実がある。

 つまり、正直で何も知らない中・低所得層には利用できる制度がなく、最貧層になってはじめて生活保護で保護されることになる(最近の問題は、「最貧層である」とウソ申告で受給する人々が増え、それをチェックできないことにある)。

 テレビや一般週刊誌であれば、生活保護を一律に削減すべきといった安直な方向に流れやすいが、経済誌はさすがに、生活保護に偏った貧困対策の限界と、それに代わる公的扶助のあり方を検討する国際比較も掲載している。まるで、ライバル誌で社会派な記事が多い東洋経済のようなスタンスの特集だ。

 かといって、こういった「ズルは許さない」的な企画にありがちな制度の問題点を指摘する形をとりながらも、読者に「ひょっとしたら、自分も不正受給ができるかも」と思わせるような「不正受給のススメ」的なページ作りも忘れない。

 厚生労働省のまとめによると2010年度では申請された生活保護のうち、およそ96%は保護開始になっている。申請者は不動産や現金、預貯金、株式、自動車などの資産を保有していないか書面で申告する。収入の有無に加えて、家族、親族の状況も書面で伝える。その後、基本的には、14日以内(最長で30日まで)に支給が決定されるのだが、この期間に行われる審査は欠陥だらけだ。

 預貯金などは銀行などのチェックをするものの、申請者の住む近辺の銀行の店舗に限られている。株式、土地、建物は「なし」と申告すれば実質的に確かめるすべはなく、申告頼みになってしまう。「頭の中に完璧な台本さえ用意すれば、理屈の上では誰でも受給が可能になってしまう」(窓口の担当者)というのだ。

 不正排除ができる唯一機能している仕組みは、所得税の課税情報だ。雇用側が義務付けられた源泉徴収の事実は、税務署を通じて、自治体の福祉担当に年に1度伝えられるのだ。ただし、この場合でも、雇用側が、雇用の事実を通知しないような事業者であれば、自治体の福祉担当は、その事実を把握することができなくなってしまう。

 全国の銀行口座へ一括照会ができる仕組みは、年内に所得や社会保障情報が把握できる国民共通番号(マイナンバー)制度の導入で、より厳格な審査ができるようになるが、それまでは、抜け穴が残ったままなのだ。

実母と自社株を争うニトリの泥仕合をあばく

 一方、待ちきれなかったのかと首を傾げたくなる特集は東洋経済だ。「週刊東洋経済 6/30号」の大特集は『あなたを襲う相続税 失敗しない事業承継 葬儀・墓』。デフレ不況で収入が伸びなくなった今、再び「相続税」の負担が重くのしかかろうとしている。現在、国会では消費増税が大詰めを迎えているが、その先には相続税の増税が待っているのだ。その改正ポイントは3つ。①基礎控除の減額、②最高税率の引き上げ、③死亡保険金の非課税対象の縮小だ。

 とくに影響が大きいのは、①基礎控除の減額だ。これまでの基礎控除は「5000万円+(1000万円×法定相続人の数)」だったが、改正後は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」まで、額が4割減額される。つまり、これまでは被相続人が父で、法定相続人が母・子供2人の3人だった場合、8000万円までは相続税がかからなかったが、改正後4800万円までになってしまうのだ。

 ……といっても、この改正ポイント、経済誌をひんぱんに読んでいる読者にとっては、耳にタコができるほど聞かされ続けた話。そもそもこの改正ポイントは10年末の政府の「2011年度税制改正大綱」で記載された改正案なのだ。ただし、その後、国会では与野党の衆参ねじれ国会で、なかなか通過しないままになっている話。すでに東洋経済では11年8月6日号『今こそ備える 相続・遺言&墓』で解説している内容なのだ。

 また、「週刊ダイヤモンド」では11年1月22日号『相続が大変だ』を。「週刊エコノミスト」でも11年2月22日号『相続が変わる』、12年6月12日号『家選びのリスクとカネと相続』と2回の大特集を組んでいる。国会で2年越しで改正案が通過しないために、各経済誌が何度も相続の改正を紹介して、じらすだけじらして、「やるやる」詐欺のような記事になってしまっているのだ。

 今回の東洋経済も「年末の税制改正に先送りされた重要なテーマがある。『相続税増税』だ。仮に年末に相続増税が決定すれば実施は2015年1月1日からになる」「今国会で先送りされただけであり、13年度または14年度の税制改正で、いずれ相続増税に向かうのは間違いない」と書いている。つまり、今、この相続税の特集をやる必要性はまったくないのだ。

 また、東洋経済の大特集の中盤(第2特集)は「葬儀、墓」といった分野の記事だが、これは10年に宗教学者の島田裕巳氏の『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)がベストセラーになって以来、「週刊ダイヤモンド」11年2月19日号『納得の葬儀・墓』、「週刊エコノミスト」11年9月20日号『葬式と墓』と経済誌が立て続けに特集している分野だ。

 今回の東洋経済『建てて終わりではない お墓の正しい選び方』では業界独自の「指定石材店制度」の問題を紹介している。これは霊園開発費を負担した石材店は、そこでの販売・工事を請け負うことができるというもの。つまりこうした霊園では、あらかじめお墓購入者が発注できる業者が決まってしまうのだ。この制度のために、いい業者に出会えるかどうかわからない。逆に「石材店をまず決める」というのが、かしこいお墓選びだという。

 ……しかし、この提案、前回の特集11年8月6日号「今こそ備える 相続・遺言&墓」でも「自由が利かない指定石材店制度」「石材店を厳選するのが墓選びのポイント」と解説している内容なのだ。前回の特集とほぼ変わらない内容を1年も経たないのに、いったいなぜ、再特集したかったのか、まったく狙いがわからない。

 唯一、興味深かったのは、大特集(第3章)の『事業承継編 社長も後継者も必見!上手に引き継ぐ秘訣』のなかの『大企業の世襲とは① ニトリ社長、肉親と裁判の泥仕合』だ。

 ニトリといえば、家具の最大手ニトリホールディングス。創業者は現在の社長である似鳥昭雄社長とされているが、もともとは、北海道で、昭雄社長の両親など一族ではじめたもの。そもそものニトリの株式は父親の義雄氏名義。89年に義雄氏が死去し、ニトリの株を昭雄社長が相続したが、そのもととなった遺産分割協議は偽造されたものであると、実の母親と昭雄社長以外の3人の妹弟が昭雄社長を訴えたのだ。時価総額約200億円ともされるニトリ株をめぐって、骨肉の争いを裁判所で繰り広げた。

 ただし、遺産分割協議じたいは税理士事務所も介在しており、偽造の余地は考えにくい。一審の札幌地裁も昭雄社長の「全面勝訴」とした(今年1月17日判決)。判決を不服とした母親側は控訴し、札幌高裁で7月19日に初公判がある。

 遺産の配分に対し、兄弟の不満から骨肉の争いにまで発展した、株式にかかわる事業承継について考えさせられるエピソードだ。後継者問題に現実的に乗り出したユニクロの柳井正社長をはじめとする多くの経営者にとって必読記事になるはずだった。

 この記事をもっとつっこめばよかったのだが、裁判記録をもとにした事実関係を紹介するのみの2ページだけ。記事では「道内メディアでニトリ批判はタブーとされるが……」などと書いているが、東洋経済も家具最大手ニトリ様に配慮した記事構成になっているのは、スポンサーに、一定の配慮が必要な経済誌の宿命なのか。
(文=松井克明/CFP)

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BusinessJournal編集部

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