なぜか「東洋経済」は好意的? 凋落著しいソニー特集を比べ読み!
(右)「週刊ダイヤモンド 5/19号」
<ソニー新CEOへの就任ご祝儀インタビューを掲載した「東洋経済」>
「週刊ダイヤモンド 5/19号」の大特集は『決定版 中高一貫校・高校ランキング』。この時期恒例の大特集だ。『「大学合格力」&「医学部合格力」全国高校ランキング・ベスト200校』『「医学部合格力」ベスト100校』『難関大学を狙える「お得な学校」』『早慶上智を狙える「お得な学校」』『都道府県別「大学合格力」全国高校ランキング ベスト1616校』と気合いの入ったランキングが続く。できるだけ高校名を掲載して、学校関係者に大量購入してほしい、といった思惑や、子育てに熱心な取材記者が公私混同的に熱心な取材をしている様子が見てとれるようだ。
そういった思惑と関係のない一般読者が、知っておきたいポイントとしては、①公立高校の復権(2008年のリーマンショック以降は学費の安い公立高校に優秀な学生が進学、東大合格者数が回復している)、②医学部志望の急増(00年ごろから顕著になった医学部志望が相変わらず続いている。しかも医学部志望は、首都圏以外の大都市周辺や関西の高校に集中している)、③中高一貫校という選択肢(高い進学実績で私立並みの教育を受けることができながら、学費が安いために、競争率が10倍近くにもなる首都圏の公立中高一貫校が話題に)……といったところだ。
いっぽう、「週刊東洋経済 5/19号」の第一特集は『ソニー シャープ パナソニック ザ・ラストチャンス』。ソニー、シャープ、パナソニックは、日本を代表する家電御三家。これまで日本経済をリードしてきたこの御三家が、ここにきてがけっぷちとなっている。11年度の決算が3社とも過去最悪の最終赤字に転落したためで、ともに新社長に交代したのだ。
記事の中でもっとも押さえておきたいポイントは、3月27日に起きた”鴻海(ホンハイ)事件”だ。鴻海事件とは、売上高9.6兆円、年商の4割がアップル社だという台湾の世界最大のEMS(電子機器受託製造サービス)である鴻海グループが御三家のひとつ、シャープへ資本参加、筆頭株主になったという件のことだ。電機メーカーに与えたショックは大きいようで、今後ともさまざまな動きが出てきそうだ。
たとえば、液晶より高精細で消費電力が少なく次世代テレビの本命とされている有機ELをめぐる業界再編の動きも加速している。記事の中で、ソニーは「異なる有機EL技術を持つパナソニックに対しても(台湾資本との合弁)新会社への参加を呼び掛けている」という消息筋のコメントを紹介しているが、15日付の日本経済新聞朝刊1面「ソニー、パナソニック提携交渉 有機ELテレビ 量産技術開発」によれば、ソニーとパナソニックは、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)テレビ事業で提携交渉に入ったという。まさに、今回の特集はタイムリーな内容なのだ。
そして、第一特集では、これまでの路線からの修正を迫られている平均年齢54歳と若い御三家新社長の横顔を紹介している。パナソニック津賀一宏社長、シャープ奥田隆司社長は技術畑出身で、韓国勢に劣勢となっているテレビ事業についても経験が豊富だ。
一方、心配になってくるのが、ソニー平井一夫新CEOだ。記事によれば銀行員の父の下、幼少期から海外と日本を行き来し、英語はペラペラ。大学時代(国際基督教大学)、ラジオパーソナリティのジョン・カビラ(2歳年上)とともにアルバイトに精を出し、ハワイ旅行などを満喫。その後、ジョン・カビラが先にいたCBS・ソニーに入社したという音楽・エンタテインメント畑の出身だ。前CEOのハワード・ストリンガーの寵愛を受けて、新CEOに就任したというストーリーは、なんだか80年代バブル時代のソニー黄金期をほうふつとさせる。
しかし、こうした輝かしいCEOによって、テレビ事業を復活させることができるのかどうか……。ブラウン管テレビで世界最大手だったソニーは、液晶パネル事業で出遅れ、テレビ事業での営業赤字は、12年3月期までの8年間で計6000億円以上に達しているのだ。この8年間のうち、7年間は平井氏を寵愛したストリンガー氏の時代だ。同氏もジャーナリスト出身で、ソニーでは映画事業の立て直しなどが中心で技術畑とは縁遠い人物だった。エンタテインメント界の人物がテレビ事業(1年前から平井氏の直轄になっている)に対して、どういった対策をとれるのだろうか? 同誌は平井新社長への独占インタビュー「ソニーを変える」も掲載しているが、ご祝儀インタビューといったところ。ソニーの内情は、ストリンガー体制への決別を勧告した「週刊ダイヤモンド 2/4号」の特集「さよなら!伝説のソニー」が詳しい。ソニーに対して好意的な「週刊東洋経済」、批判的な「週刊ダイヤモンド」というスタンスの違いは、今後誌面作りにどのような影響を与えるだろうか?
<第二特集は「日本銀行は変わった!?」で一致した理由とは!?>
実は今週号は第二特集が、2誌で同じテーマだった。「ダイヤ」の第二特集は「何やってるの!? 日銀 変われない中央銀行の苦悩」。「東経」の第二特集は「[徹底検証]日銀は変わったのか」。つまり、日本の中央銀行である日本銀行の特集だ。
日本銀行には金融政策(市場の貨幣量を調整すること)で金利をのぞましい水準にし、物価を安定させ、日本の経済を成長させる役割があるが、このタイミングで、両誌ともに第二特集に日本銀行をもってきたのは、この2月の「バレンタインのプレゼント」と評された大規模な追加の金融緩和の真意がわかりにくいためだ。
2月には「当面の基本方針として、デフレ脱却を図るため、『目途』とする物価・消費者物価の上昇率を年率1%とする。この目途が達成されるまで、強力な金融緩和を続ける」ということを発表し、10兆円規模の追加の金融緩和(サプライズ緩和)などを行った。これは事実上のインフレ・ターゲットの導入とされ、当時、1ドル76円台だった円高は、84円まで円安となった。市場で金融緩和により通貨・円がジャブジャブになれば、為替相場は、通貨安・円安の方向に動くというセオリー通りの動きとなったのだ。
しかし、本来のインフレ・ターゲット(インフレ<物価上昇>率の目標水準を設定し、その設定に沿うように金融政策をとること。日本の場合であれば、金融緩和をどんどんやって、デフレ<物価下落>から脱却すること)であれば、「目標年率1%」とするはずだが、日銀の基本方針では「目標」ではなく「目途」と表現したことなどもあって、日銀はインフレ・ターゲットを導入したのかどうかが、市場関係者の話題になっていた。そもそも日銀の現在の立場はインフレ・ターゲットに懐疑的なスタンスだったのだ。2月に路線変更をしたのかどうかで、市場の動きは大きく変わっていくからだ。
この4月27日に日本銀行の金融政策決定会合が開かれ、日本銀行の次なる行動が打ち出される可能性が大きかったために、特集ページが用意されたわけだ。 同日に決まった金融緩和は5兆円程度のもの。為替相場にも大きな影響を与えずに、2月のサプライズ緩和のような効果はなかった。日銀は2月より前の政策に戻ったのかどうか、日銀総裁の発言もあいまいで、まだまだわからないというのが現状だ。
<政府に押し切られた日本銀行 次の総裁人事はどうなる!?>
ここで簡単に日銀(中央銀行)に期待される役割について大きく2つの立場があることを確認しておこう。まず、1つは、経済学の教科書的な立場で、中央銀行による金融緩和(金融政策)は、政府の財政政策との両輪で行うもの。現在の日本ではこの10年ずっとデフレが続いており、金融政策をこれまでも行い市場をお金でジャブジャブにしてきたが、デフレのままになっているというのは、問題は政府の政策ではないかという立場だ。政府の政策による景気刺激が必要で、日銀は考えられる限りのことをやっていると考える。
これに対して、お金の総量が増えれば、その分だけインフレになるという経済学の考え方を元に、日銀はもっと積極的に関わることで景気に刺激を与えることができると考えるのがリフレ派という立場だ。インフレ・ターゲットを導入し、目標が実現するまで日銀が資産買い入れを行うことを求めている。つまり、まだまだ日銀のやることはあるはずだという立場だ。
最近のこのリフレ派の声が大きくなっているのは、アメリカの中央銀行FRBのバーナンキ議長がリフレ派の立場だからだ。この1月には米国は目標2%のインフレ・ターゲットを決めている。ならば、日本でも導入をすべきだという声が高まっているというわけだ。
また、日本の政治の問題もある。政府は赤字財政で、日本経済に効果的な政策を打ち出せそうにない。短期的な効果は期待できるインフレ・ターゲットを導入して、日本経済にカンフル剤を打っておきたいというのが、政治家の立場だ。さらに、インフレ・ターゲットを導入すれば、日銀の資産買い入れが進む。この資産の多くは国債だ。
つまり、政治家がインフレ・ターゲットを望んでいるのは、日銀が可能な限り国債を購入してくれることになるからだ。いくら借金(国債を発行)しても日銀が購入してくれれば、金利(長期金利)が低下したまま維持されるために願ってもない状況になるのだ。
こうした政治家のプレッシャーが2月に日銀に集中したために、日銀としては形だけでもインフレ・ターゲットを導入したように見せたのではないか、というのが「ダイヤ」の見方だ。これまでに国債などの日銀が購入した資産は140兆円。こうした資産の価値が減った分は、国民の税金で負担することになる。今後ますます増大すれば、日銀も大きなリスクを抱えることになるのではないかと不安視されている。
FRBも経済を支えるために、大量の米国の国債や債券・証券を購入している。こうした資産の減少分や実際に売却した場合の市場への影響など、将来、金融政策を正常化する際にFRBの政策は大きな問題になりそうだとするのは「東経」だ。実は「ダイヤ」「東経」ともに、日銀に関しては経済学の教科書的な立場を採用しており、論調が一緒だ。日銀が大量に資産購入した場合には短期的には効果があっても、長期的に見ればリスクが大きい点を懸念しているのだ。
ただし、「ダイヤ」は見出しなどは、日銀が積極的にインフレ・ターゲットに乗り出さないことを批判するリフレ派の立場で書かれていて、見出しと内容が分裂気味だ。そんな中、リフレ派に近い特集記事を掲載していたのは、GW前の「週刊エコノミスト 4/24号」特集『日銀と円安』だ。リフレ派の経済学者のコメントも紹介し、「被害者意識が強い」と日銀を批判している。今回は、「ダイヤ」「東経」とともに「エコノミスト」の立場も紹介したが、日銀へのスタンスは図のようになるだろう。
こうした日銀の記事のなかで秀逸だったのは、「東経」第二特集の「委員の欠員が常態化 総裁人事も視界不良」という指摘だ。金融政策への注目が集まっているが、日銀の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員の2名の欠員につき、現在、放置されたままだ。日銀法では内閣が任命するか、衆参両院の同意を得ることが必要となっており、ねじれ国会では、同意を得ることが難しくなっているのだ。来年3月には副総裁2人が、4月には現在の白川総裁が5年の任期満了を迎える。総裁は再任もできるが前例はない。再任となれば、与野党が現在の政策を追認したことにもなってしまう。この1年は日銀をめぐって政治もドタバタしそうだ。
(文=松井克明/フィナンシャル・プランナー)