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国内最大級の食品販売サイト・高島宏平社長が、ITビジネスのカギを語る!

お客様も社内会議に参加!? オイシックス流ユニーク経営術

構成=國貞文隆
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お客様も社内会議に参加!? オイシックス流ユニーク経営術の画像1今回取材した高島宏平氏が社長を務める
オイシックスのHPより。
 野菜をメインとする食品販売サイト、オイシックス。

 「産地や生産者がわかる商品を提供」
 「できるだけ農薬、化学肥料を使わないで育てる」
 「青果物・乳製品・卵・鮮魚・精肉の全商品を出荷前に放射性物質検査」
 「きめ細やかな配送サービス」

などを実現し、同社を2000年の創業から12年で国内最大級の食品販売サイトにまで育てたのが、同社創業者であり、現在代表取締役社長を務める高島宏平氏である。

 6月に上梓した『ライフ・イズ・ベジタブル―オイシックス創業で学んだ、仕事に夢中になる8つのヒント』(日本経済新聞出版社)も好評の高島氏に、

 「サービス向上のために行っている、同社のユニークな手法」
 「どのように困難を乗り越えてきたのか?」

そして、

 「今後ITビジネスで成功するためのヒントとは?」

などについて聞いた。

――創業から12年、苦労されたことはなんでしょうか?

高島宏平氏(以下、高島) 資金は苦労しましたね。創業して最初の3~4年は資金繰りばかりしていました。ネットバブルが崩壊した直後の2000年に立ち上げたので、

「ネットで野菜」

というビジネスについて、かなりネガティブな印象を持たれました。ベンチャーキャピタルに面談すらさせてもらえず、門前払いされたことも多かったですね。

 私は当時26~27歳くらいでしたが、例えば、お会いするベンチャーキャピタルの方々も、最初から本命案件じゃないというか、23~24歳くらいの新人2人がやって来て、財務諸表の見方もわかっていない。そこで私が「これはこういう意味ですよ」と教えてあげて、「なるほど、よくわかりました」と帰っていく。

 すると、そのあとに「残念ながら検討の結果、難しいです」と電話がかかってくる。先方は新人に経験を積ませるためだったのでしょうが、当時はそういう話だらけでしたね。屈辱的だなと思ったりもしましたけど、落ち込んでいてもお金は増えないので、動くしかないという感じでした。

 出資してくれそうな会社があって、社長面談にいくと「君、ネットで野菜売っても絶対成功しないから、辞めてうちにおいで」と言われたこともありました。この人はベンチャーを育てる気があるのかなと思いました。そういうことが、いっぱいありましたね。

わからないことは、お客に聞く

――今年、創業からの軌跡をたどった本を出されました。いま振り返ってみて、ベンチャーとして出発し、これまで生き残ることができた理由をどうお考えですか?

高島 お客様と向き合うことが、ネット企業にしては多かったと思います。私も、ほぼ毎月、お客様のご自宅まで伺ってお話を聞いたり、全社員ミーティングにお客様をお呼びしてパネルディスカッションをしていただいたり、お客様との接点を感じるような機会をたくさんつくってきました。

 私たちには、「わからないことは、お客様にすぐ電話して聞く」ということが、基本動作としてあります。お客様の声を聞くというのは、企業経営においては、カンニングペーパーを見ながら仕事をするようなもの。もちろん当たり前のことなのですが、それを地道に実行してきたことが一つの理由だと考えています。

 また、すごくいい仲間に恵まれたこともあります。私の友人の中には、同じタイミングで起業したのに、そのあと会社が続いていないケースもあります。このケースの理由とは、その人自身の能力が足りないということはではなく、いい仲間がいるかどうかが成否を分けると思うのです。

 個人でがんばることと、チームでがんばることは大きく違います。また、チームでも、10人、100人、1000人では、ぜんぜん違うチームづくりが求められる。企業経営はチームスポーツのようなもの。いいチームをいかにつくれるかが、重要なポイントになると思います。

――小売業は、激戦が続く厳しい世界だと思います。新参者が取引先を開拓していくには、困難が伴ったのではないでしょうか?

高島 取引先については、2000年当時、農家の方に「ネットで野菜を売りたい」と言っても意味が通じず、商品を仕入れることもままならず、苦労しました。

 ところが今では、ネットで商売をしていると、引き合いがたくさんあります。私たちのウェブサイトは、かなり多くの生産者や商品開発担当者がご覧になっている。最近は、生産者のほうから「私たちの商品を紹介してほしい」と連絡をいただくことが増えました。
ほかのチャネルだと意外に自分たちへの評価を得ることが少なく、ネットのほうがお客様の反応をよりたくさん得られる。生産者は当社に売ることによって、良くも悪くも評価を得られるのです。

 ネットでやっていることで、規模の割には、売り込みをいただくケースが多くなってきたと思います。オイシックスで売っていることが、営業上のプラスになる。その意味で、すごく恵まれた状態にあると思います。

ネット企業であり、食品小売企業でもある

――視野が開けてきたのは、いつごろからですか?

高島> 段階ごとに視野が開けることはあると思うのですが、最初の手ごたえで言えば、かなり初期の段階でした。買っていただいたお客様が、もう1回買ってくれる。さらに、もう1回買ってくれる。数人レベルですが、そんなお客様がいる。1回買った人が定価で継続的に買い続けてくれるというのは、サービス自体にバリューがないと起きない現象です。リピーターのお客様が数人出てきたということは、手ごたえとしてはかなりなものがありました。

――ネット企業としては、ユーザーへの対応など他社と異なる姿勢が見られます。当初から、そうした考えをもっていたのですか?

高島 私たちの会社はネットの会社でもありますが、食品小売業でもあります。つまり、「食品小売業として、いかにネットを上手に使うか?」という観点なのです。食品小売業でお客様を無視しているところはほとんどないと思いますが、私たちの場合は、それをネット上でやっているということになります。

 小売業として価値のあるサービスをしようとすると、当然お客様と向き合う必要がある。しかし、その度合いは会社ごと店ごとに異なります。私たちは、小売業として評価されるサービスを提供したいということがベースとしてある。そのために、ネットをいかに上手に使うのかが問題となるのです。

 最近、私たちも実店舗を出しましたが、ベースはネットではなく、あくまで食品小売業で、サービス業であると考えています。

――実店舗を出すと、収益率が低くなるのではないですか?

高島 確かに、実店舗の収益率はあまり高くありません。ただ、思ったよりはうまくいっている。実は私たちの企業理念には、インターネットという言葉は入っていません。「できるだけ多くの人に豊かな食生活を提供する」というのが企業理念なのです。どこにもネットという言葉を使っていない。

 私たちは、ツールとしてネットを使っているのです。初期のころ、私たちはネットが得意で、ネットならビジネスを始めるにもお金がかからずに済むと思った。そうやってネットでスタートしましたが、私たちの目指す方向のベースは小売業です。確かにネットは未来を変えていくものであると思いますが、ツールとして使うものです。

数量とクオリティーの関係

――オイシックスが急成長した時期というのは、あったのでしょうか?

高島 急成長したという感覚はありませんね。性格はのんびり屋でないのですが、残念ながら、業績はのんびりしているという感じです。早く成長したいのはもちろんですが(12年3月期決算の売上高は126億円)、私たちは扱う食材に対して厳しい基準を設けています。そのため、売り上げが増えたからといって、その分どこかから買ってくるというわけにはいかない。売り上げを増やすことと、生産者を増やすことを両輪でやっていかなければならないのです。

 したがって、業態上、着々とやらざるを得ない。数量を追えば、クオリティーが乱れてしまうので、ソーシャルゲームのように一気に売り上げを伸ばすことが許されないのです。結局、いままでのプロセスを歩まざるを得なかったのです。

 お客様の求める基準は厳しく、非常に変化も激しい。時代の変化もあれば、お客様自身のフェーズによる変化もある。自分たちのサービスが、お客様の期待値をいかに上回るか。そこで競争している感じです。私たちが上回れば、売り上げも伸びるわけですから。

食・医療・スマートデバイスの融合

――ITビジネスの有望分野について、どんな考えを持っていますか?

高島 ITビジネスは変化の激しい分野です。業界の覇者はどんどん入れ替わっていく。その観点からみれば、ネットの世界はまだ黎明期だと思っています。産業革命でいえば、まだ始まったばかりといったところくらいでしょうか。

 IT業界で何か新しいことが起きても、すべての業界に影響を及ぼすにはタイムラグがあります。例えば、フェイスブックがつくっているような世界観が、既存の小売業やサービス業、金融業に大きな影響を及ぼしているかといえば、そうでもない。その意味では、まだまだこの世界は大きく変化するだろうと思っています。

 私たちは食品小売業の視点から、

 「お客様の新しい動きを、どうビジネスに生かしていくのか?」

を考え続けています。もっとソーシャルメディアが進化していけば、「医療」と「食」の世界が近づいてくるかもしれない。

 例えば、病気に悩む患者さんがどのような食生活を送っているのか、または食事療法で病状はどう変化するのか。ネット上でそんな情報共有をできるような集合知の場がない。5~10年後にはシニア向けのスマートデバイスが出て、健康についての情報を共有し合うようになってくるかもしれない。そこに私たちがソリューションを提供する機会が生まれてくると思うのです。

 そのころには、ネットの世界で新しいことが発明されているかもしれません。人々の習慣は時間をかけて変わっていく。こちらも時間をかけてサービス化していきたいですね。

――最後に、オイシックスの将来像についてお聞かせください。

高島 ネットは、いろんな産業の領域をなくしていくと考えています。例えば、これまでの食生活のサービスといえば、食料販売店があって、レシピ本を販売する書店があって、医師がいて、管理栄養士がいるけれども、こうした食を取り巻くサービスは、どれも提供者側の都合で分断されてきたと思うのです。おそらくユーザーからすれば、あまり便利ではない。

 私たちは、将来的に「食材販売会社」から「食生活支援会社」になっていきたいと考えています。食生活として一元化されたほうが、ユーザーのメリットは大きくなると思うのです。「医療」と「食」、「料理」と「食材」もそう。いろんなものが消費者側の目線で編集し直されていくのだと考えています。そのときに活躍できるプレーヤーになっていたいと思っています。
(構成=國貞文隆)

<目次>
【1】突破力のグリー、戦略のDeNAにみるゲーム業界のミライ
【2】お客様も社内会議に参加!? オイシックス流ユニーク経営術
【3】マック、ナイキ…ファンと売上を増やす新しいサイトの仕組みとは?

國貞文隆

國貞文隆

1971年生まれ。学習院大学経済学部卒業後、東洋経済新報社記者を経て、コンデナスト・ジャパンへ。『GQ』の編集者としてビジネス・政治記事等を担当300人以上の経営者を取材した経験がある。。明治、大正、昭和の実業家や企業の歴史にも詳しい。主な著書は『慶應の人脈力』『やはり、肉好きな男は出世する ニッポンの社長生態学』『社長の勉強法』『カリスマ社長の大失敗』など。

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