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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第1回

新聞を読まない、パーティー三昧…巨大新聞社長の優雅な日々

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「Thinkstock」より
 大都新聞社役員室は「大都タワービル」24階フロア、最上階の貴賓室の一階下である。社長室は皇居を見下ろす角部屋で、30畳ほどの広さだ。部屋に入ると、左右に空が広がる。まばゆい青空の時もあれば、白い濃霧のような曇天の時もある。ある時は窓ガラスを打ち付ける雨がすだれのように流れる。冬の日は遠く奥多摩の山並み、富士山を望める。

 社長の松野弥介(やすけ)が出勤したのは午前10時少し前。新聞社はどこもそうだが、普通の会社より動き出すのが遅い。午後の朝刊製作の仕事をベースに動いているためで、経理や総務などの管理部門の出勤時間は午前9時半、役員は午前10時までの間に五月雨的に出勤する。

 部屋に入って、右手の窓際に打ち合わせ用のラウンドテーブル、左手の窓際に応接セットが置かれている。その間、左右に窓の広がった部屋の角を背にして社長用デスクがある。ラウンドテーブルには朝刊各紙が並べて置かれている。いつでも、手に取りやすいように、という心配りだ。しかし、松野はそこに一瞥すら与えず、自席に着いた。昔から新聞をほとんど読まないのである。もちろん部屋からの眺望など、目に入ることはない。

 編集局長時代に面白いエピソードがある。ある日、松野が午前10時前に出勤し、夕刊当番の編集局次長を呼びつけた。

 「おい、昨日の日亜新聞朝刊に載っていたらしいが、A社とB社の提携、なぜうちは記事にしない? 今日の夕刊で載せなさい。昨日の宴席で恥をかいたぞ」
 「え、その話、うちは4日前の朝刊で載せていますよ」
 「どこに載っていた? 新聞持ってこい」
 
 当番次長は局長室の隅にある一週間分の新聞の綴りを持ってきて、開いて見せた。記事は一面ではなかったが、経済面のトップに載っていた。

「こんな大事なニュースは一面に出稿しなきゃだめだぞ。俺だって、毎日毎日、記事の扱いまで事前にチェックしていたら、体がいくつあっても足りない」

●自社の新聞すら読まない

 ことほど左様に、松野は自社の新聞すらろくに読まない。日亜新聞や国民新聞など読むはずもない。松野は読むより、聞く、そして、聞くより歌う、日々を送っている。余談だが、その人柄を彷彿とさせる、笑うに笑えぬ逸話がある。若い記者時代に取材相手との会話に夢中になり、予定の原稿を出稿し忘れ、紙面に穴をあけそうになったという。

 役員の出勤は役員室受付でチェックしているので、松野が自席に着くと、秘書部長の杉本基弘(もとひろ)が、お盆にお茶を載せた女性社員を伴い部屋に入ってきた。その日の予定を確認するためだった。午前中は広告関係の来客が2件、昼はある企業の周年記念パーティーに顔を出し、午後は販売関係の来客がやはり2件あった。

 経済部出身の松野には、大企業の社長交代パーティーや周年記念パーティーの招待状がひっきりなしに届く。業界トップの大新聞社長ともなると、政治家のパーティーや朝食会への招待状もくる。政界とのパイプも広げるという名目で、これにも小まめに出席した。もっとも、これには、松野自身の社交的な性格が多分に影響していた。結局、よほど外せない会議や接待でもない限り、パーティーには大抵出席する。社内で“バンケット社長”などと陰口をたたかれていたのはこのためだ。

『夕方5時から「社長」になる!』


巨大新聞社社長がお仕事する時間は?

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