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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第1回

新聞を読まない、パーティー三昧…巨大新聞社長の優雅な日々

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 「そうだな。午前7時にホテル正面に回してくれ」
 「それでは午後5時40分に、正面玄関脇の車寄せで待たせるようにしておきます」

●ホステスからの頻繁な電話

 杉本は一礼して背を向けると、部屋を出た。松野は、やおら携帯電話の電源を入れた。開けっ広げな性格の松野は、クラブやバーのホステスでも誰彼構わず、携帯番号を教える。相手によっては日中でも平気で携帯に電話してくるのがいる。それは困るので、午前10時から午後5時までの間は電源を切っていた。留守番電話を確認すると、2件あったが、バーのママとホステスからだった。99%が「店に来てね」という吹き込みで、用件は聞かずにわかる。それでも、松野は冒頭だけ聞いて「案の定」と思い、2件とも消去した。

 「よし。今日は予定通りだな。午後6時半に行けばいいな」

 松野はそうつぶやくと、再び、携帯の画面と向き合い、メールを打ち始めた。

 70歳くらいの年齢になると、パソコンでインターネットはやっても、携帯メールは使わない。松野も携帯は通話だけで、メールは使わないと吹聴し、杉本はもちろん、側近の連中にも公言、彼らのいる所ではメールを使っているところは見せないようにしていた。松野がメールを使っていると知る者は皆無に近かった。

 しかし、実際は特定の相手とだけメールをやり取りしているのだ。若者並みの手際の良さで、メールを打ち、送信すると、松野は立ち上がり、ドアの脇にあるクローゼットに向かった。濃紺のコートを取り出し、部屋の中で羽織った。そして、ブルガリのビジネスバッグを取った。部屋を出ると、秘書室の前で気取った声で杉本に声を掛けた。

 「出かけるよ。携帯はオンにしておくから、緊急の用件があったら、頼むぞ」

 杉本も部屋を出て、女性秘書とともに、エレベーターのところまでついてきた。

 「今日は、古い友人だから、二次会にも行くかもな」

 松野はマイクを持つ手ぶりをして笑った。

 「かしこまりました。大いに楽しんでください」

 杉本がまた意味ありげな含み笑いをして目礼すると、エレベーターのドアが開いた。

 「じゃあな」

 乗り込んだ松野が軽く手を上げると、ドアが閉まった。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週10月20日(土)掲載予定です。

●大塚将司(おおつか・しょうじ)
作家・経済評論家。著書に『流転の果てーニッポン金融盛衰記 85→98』(きんざい)など

BusinessJournal編集部

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