黒田日銀・異次元金融緩和に潜むワナ…物価急上昇・国債暴落の可能性は?
もし、日本が少しでも第二の経済大国時代の栄光を取り戻したいというのであれば、政策当局者には過去の経験に基づくセオリーに捉われず、果敢にデフレ脱却へ向け、実験的な政策を打ち出すことが求められる。この意味で、4月4日に日本銀行が決めた「量的・質的金融緩和」と呼ぶ新たな金融緩和強化策は評価されねばなるまい。白川方明前総裁に代わり日銀総裁に就いた黒田東彦氏が記者会見で述べた通り、まさしく「これまでとはまったく次元の異なる金融緩和」策だからである。
しかし、実験はあくまでも実験。答えが出るのはこれからである。成功するかもしれないし、失敗するかもしれないのだが、実験しなければ前に進めない、つまりデフレを脱却できないのも事実。今後は失敗しそうになった時、機敏かつ柔軟に対応できるかどうかが最大の課題になる。
それでは、今回の実験の成否をどうみるべきなのか。デフレ脱却への第一のハードルは日本経済に不可欠な投機マインドをいかに取り戻すか、である。それには金融政策が大きな意味を持つ。
「異次元の金融緩和策」の発表は即座にマーケットを動かした。4月5日の株式市場では日経平均株価が一時1万3000円台を回復、出来高も東証1部の出来高は64億4912万株と、東日本大震災直後である2011年3月15日の急落時の57億7693万株を超え、過去最高を更新した。外国為替市場でも、円相場が一時1ドル=97円台に続落し、3年8カ月ぶりの安値となった。
そして、4月19日にワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明には、心配されていた円安誘導批判は盛り込まれず、日銀の「異次元の金融緩和策」について「脱デフレ目的」と明記、容認された。このため、直近時点(4月22日)では円相場が1ドル=100円に迫り、株価は1万4000円台をうかがう勢いだ。
投機マインドを刺激したのは間違いないが、当面はこれがいつまで持続するかがポイントになる。
●マイナス金利で問われる覚悟
2つのケースが想定できる。第一は1〜2カ月で投機マインドがしぼみ、元の木阿弥になるケースである。この場合は、市場が日銀に対し“次の一手”を催促する。その時、「戦力の逐次投入をせずに、必要な政策をすべて講じた」(黒田総裁)としている日銀に打つ手はあるのか?
ないわけではない。民間金融機関が日銀に預ける当座預金の金利をマイナス金利にすることである。しかし、マイナス金利を導入することは海外から“円安誘導”と強く批判される可能性が高い。摩擦を恐れずにマイナス金利に踏み込めるか、“黒田日銀”の覚悟が試されることになる。
もし、躊躇ってマネタリーベースの目標時期(14年末に270兆円)の繰り上げや金額の拡大、(株式を組み込んだ)株価指数連動型上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の年間購入額(それぞれ1兆円、約300億円)を増やす政策など、小手先でお茶を濁せば、市場に足元を見られる懸念も出てくる。
だが、そうした展開になる可能性は低いだろう。今回の「異次元の金融緩和策」は1985年9月22日のプラザ合意に匹敵するインパクトを持つ政策転換ではないかと思えるからだ。つまり、投機マインドは日本の経済に必要な程度に正常化し、しばらく持続する公算が大きいのだ。これが第二のケースだ。
●懸念されるバブル再来はあるのか?
こういうと、「それでは1980年代後半のバブルが再来するのではないか」という質問が返ってくるかもしれない。しかし、その懸念も少ないとみていい。今の日本経済は80年代後半とは決定的に違うからだ。当時は主要な産業で日本が世界最高の輸出競争力を誇示していた時代である。だが、今やその競争力が相当程度落ち込んでおり、新たな輸出産業が生まれる兆しすらないのが現実だ。万が一、6月に打ち出す成長戦略が奏功したとしても、その結果が顕在化するのは早くて4〜5年先だ。
それでは、第二のケースになれば、実験は成功したと評価できるだろうか? 為替相場の円安が1ドル=110円で落ち着けば、そうした評価も成り立つであろうが、そうなる保証はどこにもない。プラザ合意同様に「異次元の金融緩和策」にも大きな“落とし穴”がある。それは円安を止められなくなるリスクである。