黒田日銀・異次元金融緩和に潜むワナ…物価急上昇・国債暴落の可能性は?
プラザ合意は日米英独仏5カ国の通貨当局が為替市場に協調介入してドル高を是正することで、貿易不均衡を是正しようとした、G5(5カ国蔵相中央銀行総裁会議)の戦略だ。この戦略も市場には寝耳に水のことで、相場の流れは一変した。天井知らずの円高が始まったのである。
米国のベーカー財務長官(当時)とともにプラザ合意を主導した竹下登蔵相(同)は、3カ月もすると「円高大臣」と揶揄されるようになり、後を引き継いだ宮沢喜一蔵相(同)がなんとか円高を食い止めようと東奔西走した。そして、87年2月22日にドル安に歯止めをかけるべく、G5にイタリア、カナダを加えたG7(7カ国蔵相中央銀行総裁会議)でルーブル合意をまとめ上げたが、円高の流れを食い止めることはできなかった。
ことほどさように、マーケットの流れを変えるのは至難の業なのである。政策当局の意図通りにならないのが為替相場であり、もし1ドル=130円、140円台と、過度に円安が進むようだと、お手上げになってしまう恐れがあるのだ。
80年代後半は円高を止められなかったが、その一方で、内需拡大を求める米国の圧力に屈し、日銀が低金利政策を続け、バブル経済を惹起した。だから円高にもかかわらず、株式も熱狂相場を続けた。だが、今は円安を止められないとわかれば、輸入物価の急上昇という負の側面に反応し、株価は下落するだろう。しかも、債券市場は世界最悪の日本の債務残高を嫌気して金利が上昇する懸念も一段と強まる。
新興国はもちろん、欧米諸国も過度な円安を喜ばないので、もう一度、通貨当局がプラザ合意のような戦略で共同歩調を取る選択肢はある。4月19日のG20でも新興国を中心に最近の円安傾向への不満はくすぶっており、過度な円安になれば、G20がそれに歯止めをかける協調行動に向かう可能性も十分ありうるのだ。しかし、それが日本の金融政策や財政政策の手足を縛ることを意味することも忘れてはならない。
こうした展開になることを避けるにはどうすればいいか?
外需拡大を最大の眼目とした新しい輸出産業を創出する成長戦略を打ち出すことだ。それが奏功するかどうかは未知数だし、奏功するとしても早くて4〜5年先だが、マーケットへのシグナルにはなり、円売りの抑制効果に働く可能性がある。外需拡大に照準を置かず、規制緩和による内需の拡大など、まやかしの成長戦略では過度な円安を食い止める効果はほとんどないだろう。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)
※本記事は、「週刊金曜日」(金曜日/939号)に掲載された大塚氏の評論に加筆したものです。
●大塚将司(おおつか・しょうじ) 作家・経済評論家。著書に『流転の果てーニッポン金融盛衰記 85→98』(きんざい)など