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吉田潮「だからテレビはやめられない」(5月8日)

長嶋・松井国民栄誉賞授与式、MVPは徳さんと三奈? 矜持を守る“真の”スタイル

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『野球は人生そのものだ』
(長嶋茂雄/日本経済新聞出版社)
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。

 矜持。とにかくその一言が頭に浮かんだ。何がって、長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞授与式だ。巨人ファンでもプロ野球ファンでもないのに、なぜか連休の狭間でうっかり観てしまった(巨人ファンの友人が、たまたま我が家に来ていたからなんだが)。

 そこで観たのは終始右手をポケットに入れたままの長嶋茂雄で、その姿からは滲み出る「男の矜持」があった。プライド、誇り、自負……いろいろと言葉はあるけれど、長嶋のそれは矜持の印象が強かった。

 脳梗塞を患った後、公の場に出る時は必ず右手をポケットに入れている。麻痺や震えを隠すためだと推測するが、その頑なな姿勢はさすがである。国民的スーパースターである自分、元プロ野球選手としての自分、男としての自分。そんな自分が健康じゃない姿をさらけだすのを彼自身の美学が許さないのだろう。杖をつかない、車椅子にも乗らない。弱って老いた自分を見せたら、ファンががっかりしてしまう。男のプライドが許さない、というよりもエンターテイナーとしての矜持なのかもしれない。

 肌艶もよく、姿勢も驚くほどしゃんとしていて、スタイルもよくて、スーツがあれだけ似合う77歳なんてなかなかいない。友人とふたりで「長嶋さんて、やっぱカッコイイねぇ」と改めて感嘆した。でも、カッコイイだけじゃ許されない国民的スターって、さぞかし大変なんだろうなぁと冷静に観察。

 松井が長嶋を気遣って3歩後ろを歩いたとか、賞状やら謎の金バット(純金じゃないよね、絶対)やらを授与されるときに松井が横からさっと手を添えたとか、美談めいた取り上げ方をしているが、そこは正直どうでもいい。たぶん、そういうことをされること自体が長嶋の美学に反するんじゃないかとも思ったりする。

 よく電車内で年輩の人間に席を譲ったら逆ギレされたり、ムッとされることがあるのだが、あれと同じ。この世の中には、年寄り扱いや病弱者扱いを好まない人だっているのだから。なんてことを考えていると、長嶋のこだわりと美学がだんだん厄介にも見えてくる。年輩の男性特有のプライドとどう付き合ったらいいのか。頭の中には、これから訪れるであろう父親の介護への懸念が思い浮かんでしまった。

 その懸念を想起させた源は、役に立っているんだか立ってないんだかわからない立ち位置にいた娘・長嶋三奈である。父を甲斐甲斐しくサポートするでもなく、微妙な立ち位置で賞状やら楯やらを並べるアシスタント風情で微笑む三奈。コメントするでもなく、これみよがしに父娘愛をアピるわけでもなく。そう、これが真の意味での「父の威厳を守るスタイル」なのだろう。結局、男の矜持を陰で支えているのはいつも女だ。ぺらぺら軽口叩く息子じゃなくて、そっと陰で見守ってくれている娘なんだよな。

 もうちょっと軽いノリと下世話な目線で授与式を振り返ってみよう。なぜ長嶋と松井は同じストライプのシャツに水玉のネクタイだったのか。あれって巨人軍の公式な装い? それともお揃いにしようと打ち合わせた? オーソドックスというより無難系。個性を出しちゃいけないのか? なんてことをもやっと考える。

 で、結局最も印象に残ったのは徳光和夫の漏れ出す嗚咽。泣き過ぎだってば、徳さん。ということで、今回のMVPは徳さんに決定。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。