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反応さまざまなあのニュースをどう読む? メディア読み比べ(6月17日)

川崎重工で社長解任の“クーデター” 市場は好感も、役員にのしかかる代償とは?

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上の方針にゃ従うっきゃねぇ!(「川崎重工HP」より)
 造船重機大手の川崎重工業で13日、長谷川聡社長をはじめとする3役員が解任される“クーデター”が勃発したことを各メディアが大きく報じている。

 14日付の朝日新聞のまとめによれば、同日の臨時取締役会で長谷川社長、高尾光俊副社長、広畑昌彦常務を解任する緊急動議が提出され、残る取締役10人全員が賛成。後任社長には、村山滋常務が昇格した。

 解任の理由は4月22日、日本経済新聞が報じた三井造船との経営統合交渉だった。川崎重工はこの件について「当社が発表したものではなく、そのような事実はない」と説明してきたが、長谷川氏らが独断で交渉を進めてきたことを、村山氏がついに認めた。5月23日に行われた取締役会後の検討会議では、統合反対派が多数を占め、6月26日に迫る株主総会を前に「統合交渉を取締役会にはかるべきだ」という意見が出たものの、3人は手続きをすぐには進めなかったという。

 こうした状況で役員らに不信感が募り、3人が「コーポレートガバナンス(企業統治)の観点から見過ごせない行動を繰り返した」(村山氏)として、電撃解任に至ったというわけだ。

 今回の解任劇を市場はどう捉えたのか。14日の毎日新聞は「株価上昇、統合白紙を市場が評価」として、同日の東京株式市場で川崎重工が前日終値比13円(4.24%)高の319円をつけたことを伝えている。一方の三井造船は、8円(5.51%)安の137円と低迷した。

 同紙のまとめによれば、幅広く事業を展開する川重にとって、造船部門の売上高は全体の1割弱に過ぎないが、三井造船は売上高の5割強を不況の造船事業に依存しており、2013年3月期は82億円の最終(当期)赤字に転落している。市場では当初から「三井造船の救済色が強い統合案」(大手証券)という見方が強く、交渉打ち切りは川重にとってプラス、三井造船にはマイナスとの受け止めが広がったようだ。ブルームバーグも、メリルリンチ日本証券が「取締役会が適切に機能していることが裏付けられた」「社長交代はポジティブ」との見方を示したことを伝えている。

 一方で、15日付けの朝日新聞は、川崎重工が統合交渉をめぐって事実と異なる発表をしたとして、東京証券取引所が注意を与えたと伝えている。上場企業の情報開示は、投資家の判断に影響を与える可能性がある重要事項を広く正確に伝えるのが狙い。虚偽の発表をした上場企業に対して、違約金を求めるなどの処分を行うケースもあるが、現在のところそうした処分までは検討されていないようだ。

 一見、川崎重工としては役員の刷新で組織のクリーンアップを印象づけ、市場の評価も高めるなど“丸く収まった”ように見えるが、「クーデターには代償がある」という厳しい見方も出ている。

 14日、日本経済新聞ウェブ版にスペシャルリポートを起稿した同紙編集委員の武類雅典氏は、「社内の派閥争いの行き着いた先が、今回の解任劇なら、再出発する川重の新経営陣にのしかかる重圧ははかりしれない」「『縦割り』『内向き』など大企業病がまん延しているところに、社長解任の動揺が重なれば、社内は疑心暗鬼になりやすくなる。結果、混乱はそう簡単に収まらず、業績の長期低迷などを招いてしまう」と指摘した。

 経営トップの解任劇は、それほど珍しい話ではない。武類氏は1990年代の米ゼネラル・モーターズ(GM)で社外取締役らが最高経営責任者(CEO)を追放したトップ解任劇とともに、82年の「三越事件」を例に挙げ、「『自動車産業の王様』だったGMは法的整理を迫られ、政府の手を借りなければ再建できないところまで追い詰められた。三越も、日本の消費文化を引っ張るリーダーの座をなかなか取り戻せず、結局、ライバルの伊勢丹に事実上飲み込まれた」と、川崎重工の今後に警鐘を鳴らした。

 15日の産経ニュースは「前社長ら3人を解任した川崎重工業が、26日に迫った株主総会への対応に苦慮している」と伝えている。これは、すでに発送を終えた株主総会の招集通知に、解任された社長らを含む取締役選任の議案が記載されているためで、延期も検討されているようだ。川崎重工はこれまでの経営をリセットし、本当の意味で市場の信頼を取り戻すことができるのか。それとも、“クーデターの代償”を払うことになるのかーー。そのシナリオの一端が垣間見えるだろう次の株主総会に注目が集まる。
(文=Blueprint)