産業競争力会議重用で、経団連を外す!? 安倍政権経済政策の大胆改革とは?
「週刊東洋経済 6/29号」の特集は『安倍政権の正体 ――秘められた本心と人脈――』だ。「戦後レジームの転換を掲げる安倍首相だが、参院選まではそのカラーを封印。アベノミクスを看板に安全運転中だ。参院選勝利後にはどんな素顔を見せるのだろうか」と政策と人脈に迫った特集だ。
今回の特集のタイトル『安倍政権の正体 ――秘められた本心と人脈――』とはどこか仰々しく、左翼系市民派週刊誌「週刊金曜日」が名付けそうなタイトルだ。「週刊金曜日」ならば、安倍政権の憲法改正を狙うタカ派ぶりと、軍事産業や原発産業との癒着などをキメ打ち的に取り上げることになるのだが、やはり社会派経済誌の「東洋経済」の視点は明確。「経済と雇用」の視点で、小泉政権下で規制緩和を進めた竹中平蔵慶大教授の復活と、規制緩和を支える財界の変化に迫っている。
まずは、一般的な経済紙の情報をもとに、7月の参院選後の自民党長期安定政権の登場で、予想される経済政策への影響をまとめてみると、政権内部で「参院選が終わってから2年は経済に集中することで一致している」ことから、当面は9~10月に予定されている消費税率引き上げ実施の最終判断が注目となる。2014年4月には消費税率を現在の5%から8%に。15年10月には消費税率を8%から10%に引き上げるかどうかの最終判断を秋にも迫られることになる。
これに異論を唱えているのが、アベノミクス3本の矢の1つ・異次元の金融緩和を仕掛けたリフレ派だ。内閣官房参与の浜田宏一氏、高橋洋一氏らは金融緩和をテコに緩やかなインフレを起こし、景気回復につなげようとしている現状では、消費増税は景気へのショックが大きい。消費増税を延期し増税なき財政再建路線を志向すべきだと唱えている。参院選の結果次第ではこの論調が高まるかもしれない。
ただし、財務省はプライマリーバランスの対GDP赤字を「15年度までに3.2%へ10年度から半減、20年度黒字化」の国際公約達成に驀進中。8月の「中期財政計画」と9月初旬のG20サミットもあり、延期には否定的。投資減税とセットで、増税既定路線を進むことになりそうだ。今回の特集記事『参院選後のシナリオを大胆分析! 長期安定政権確立で経済・財政政策はこうなる』では、ただし「消費税率を10%に上げても、社会保障の財源はなお17兆円も不足」するために、財政再建の道のりは遠いと指摘する。
さらに、参院選後は自民党内からの歳出増圧力も高まる。7月から始まるTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉が妥結するのは今年12月。14年の予算編成に向けて、厚労族や農林族からの要求が高まっていく。
そして、秋にも期待される成長戦略第2弾では、さらなる大幅な規制緩和が期待されているが、混合診療の全面解禁、農地改革、解雇規制の緩和など既得権益からの猛反発が予想されるのだ。
特集記事では『「成長戦略」を主導するのは、構造改革に重きを置くグループだ。その筆頭は、小泉政権で安倍首相とともに働いた竹中氏。同じ流れには、三木谷浩史・楽天社長、新浪剛史・ローソンCEO、金丸恭文・フューチャーアーキテクト社長らがいる。竹中、三木谷、新浪の各氏は成長戦略の策定を主導した産業競争力会議に、金丸氏は規制改革会議に起用された』という。
産業競争力会議の目玉政策「国家戦略特区」は竹中氏の影響が大きいのではないか。また産業競争力会議は「日本経済再生本部の一部だが法的裏付けはなく、存続期間も不透明」と記事は鋭い指摘をする。
さらに特集記事『財界の安倍親衛隊「さくら会」とは? 安倍首相に疎まれて 経団連が学級崩壊』では、産業競争力会議には経済同友会からは長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業社長)、新浪副代表幹事が、新経済連盟からは三木谷代表理事が参加しているにもかかわらず、財界の総本山たる日本経済団体連合会(日本経団連)の米倉弘昌会長は外されている点を指摘している。米倉氏は安倍首相の外交観を批判し、外されたのだという(そもそも、経済同友会の牛尾治朗ウシオ電機会長と安倍首相が親戚関係にあることも大きい)。
「東洋経済 6/15号」でも第2特集で『崩れ始めた経済界の序列』という財界の影響力の変化に迫る特集をしており、財界に大きな地殻変動が起きているようだ。
そして、特集記事『会社員必読! 解雇規制緩和の全内幕 限定正社員って何?「解雇自由化」への一里塚か』はタイトル通り、たしかに必読だ。
竹中氏や新しい財界の勢力が民間議員を務める産業競争力会議が進めるのが解雇規制の緩和だ。竹中氏は「解雇が過度に抑制されている」とし、新浪氏も「解雇ができる制度を大前提とすべき」として、合理的な理由と社会的相当性を欠く解雇は無効としている現在の「解雇権乱用法理」の見直しを主張。一定の金銭支払いとセットの解雇自由の原則を打ち出したペーパーが波紋を呼んだ。さらに職務や勤務地が限定されている無期雇用の正社員「限定正社員」制度構想も飛びだしている。勤務地に職場がなくなれば限定正社員の解雇を自由にできるのではないか、といった懸念のある制度で、この議論も参院選後の検討課題になっている。
記事では日本経団連よりも経済同友会は解雇規制の緩和に積極的で、これまで小泉改革で規制緩和の急先鋒だった規制改革会議よりも、産業競争力会議が急進的に解雇規制緩和を進めようとしている事実を指摘している。これまでよりもかなり踏み込んだ議論をしているということは、一般家計の生活にもこれまで以上に影響を与えかねない改革が始まるかもしれないのだ。
(文=松井克明/CFP)