榊原定征(東レ会長)の新会長就任に伴い、6月に発足する経団連新執行部の体制が決まった。副会長は18人中4人が入れ替わり、中でも経団連プロパーの中村芳夫事務総長が退任し、後任に企業のトップが起用される。新執行部には、榊原氏が関係の深い企業の経営者が補佐役に選ばれた。榊原氏は社外取締役を務める日立製作所の中西宏明社長と、NTTの鵜浦博夫社長が“榊原枠”で副会長に就任し、この2人が榊原体制を実質的に支えることになる。同時に日立の川村隆会長、NTTの三浦惺会長が共に副会長を退任するため、“会社枠”を守ったともいえる。一方、コマツの坂根正弘相談役も副会長を退任するが、同社は後任を出さない。日立も本音では中西氏を副会長にしたくなかったが、「榊原体制を支えてくれと言われたら断れない」(元日立幹部)という理由で就任した。
会長の助言機関である審議員会議長には、副議長だった三井不動産の岩沙弘道会長が昇格する。現審議員会議長のJXホールディングスの渡文明相談役は任期満了で退任するが、同社の木村康会長が副会長に就任する。このほかには、野村證券の古賀信行会長が副会長に就任する。
榊原新体制は6月3日の定時総会で正式に発足する。任期は慣例で2期4年だが、前途は多難だ。経団連会長は「現役の経団連副会長から選ぶ」「旧財閥系出身者は除外する」という不文律があるが、今回選ばれた榊原氏は3年前に経団連副会長を退任しているOB組だ。米倉弘昌・現会長(住友化学会長)は4年前に経団連評議員会議長(現在の審議員会議長)から経団連会長に起用されたが、旧住友財閥系企業の会長だったため、当時は「異例の選出」といわれた。そして今回の榊原氏起用も「ハプニング人事」といわれたが、背景には米倉会長が製造業出身者に固執したことがある。
これまでは副会長のポストには、利権と特権が付いてくるといわれていた。利権とは、首相や大臣の海外訪問に随行し、トップセールスを行えた点で、いまや経団連の地域別・国別の委員会は23にまで増えた。副会長のポストを欲しがるのは国策への依存度が大きい企業や業界で、独力でグローバル展開できる企業は経団連のポストなど不要になってきている。最近では、日本航空の大西賢会長と植木義晴社長が「我々も経団連のお手伝いをしたい」と意欲を見せているが、その意図は副会長か政策委員長のポストが欲しいということにある。
次期代表幹事人事で揺れる経済同友会
もうひとつの主要経済団体である経済同友会に目を転じてみると、代表幹事の長谷川閑史氏(武田薬品工業社長)の評判が芳しくなく、任期は15年4月までだが、今年12月に新代表幹事が決まる。次期代表は、順当なら小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長だが、経済財政諮問会議の民間議員としての評判が「まるで評論家のようだ」(政府関係者)といまいちだ。
現在の副代表幹事の中から選ぶとなると、消去法で新浪剛史・ローソンCEOという線も強い。新浪氏はローソンに会長職を新設し就任すれば代表幹事としての資格を得ることができるが、新浪氏が望んでいる「新浪会長・玉塚元一社長」体制を親会社の三菱商事が渋っていた。三菱商事としてはローソン社長に自社の人材を送り込みたいと考えているためで、新浪氏がローソン会長にならなければ、同友会代表幹事の芽は消えるといわれていた。だが、3月19日、ローソンは新浪氏が会長、玉塚氏が社長にそれぞれ就任する人事を固め、24日の取締役会で決定する見通しとなり、新浪氏の経済同友会次期代表幹事就任の線がより一層強まった。
かつて日本を代表する大企業で構成する経団連は「財界総本山」といわれ、会長は「財界総理」の異名を取り、大きな影響力を持っていた。だが、経団連の影響力は年々衰え、いまや経団連会長は経済人が忌避する「損な役回り」になってしまった。財界からは、「経団連と経済同友会は歴史的な役割を終えた」「新しい経済団体として一から出直す時期に来ている」との声も聞こえてくる。
(文=編集部)