西麻布の小洒落たビルの一室。大きな窓に、木目の床、いかにもクリエイティブ系企業のオフィスのような部屋の中には、それぞれ高さ1メートル以上もある大型の機械が複数台並び、四角い筐体の中では何かが動いている……。
ここはDMM.comが運営する「DMM 3Dプリンティングセンター」の東京センター。IT大手のDMMが満を持してローンチした3Dプリントサービスの“印刷”工場だ。並ぶのは海外から取り寄せた最新鋭のシロモノ。どれも1台につき数百万〜数千万円はくだらない逸品だ。
ユーザーがDMM.comのサイト上で設計図をアップロードし、DMMが3Dプリンタで出力、完成品を自宅まで届けてくれるというこのサービス。プリンティングセンターの運営は、シェアオフィスの運営やスタートアップへの支援を行うnomadが運営し、猪子寿之氏率いるチームラボが開発パートナーとしてバックアップする。
ものづくりに革命をもたらすといわれ、注目を集めている3Dプリンタ。しかし、日本ではまだまだ本格的な普及にはいたっておらず、日本人クリエイターも「Shapeways」や「i.materialise」といった海外のサービスを利用しているのが現状。この3Dプリンタ“発展途上国”状態を打破し、誰もが気軽に3Dプリンタを扱える時代へとDMMが先鞭をつける。
「プリントセンターの開設によって、今までのマーケットにはない新たなプロダクトを実現できる」と息巻くのはnomad代表であり本事業技術責任者の小笠原治氏。「国内でこれだけの機種を取り扱い、多様な種類の素材を加工できるプリントセンターはなかった。価格、納期の面でも海外勢には負けない」と、ズラッと並んだ機種を前に語る。これまでに合計で「億はくだらない」(小笠原氏)という投資をプリントセンターに費やしてきたDMM。3Dプリンタに親しんできたプロのみならず、今秋にはAPIを公開し、これまで3Dプリンタに縁のなかった一般層にも裾野を広げていたい考えだ。
では、その性能のほうはどうだろうか?
同サービスでは、アクリル、石膏、ナイロン、チタンなどの素材を加工でき、納期は7〜9日。iPhoneケースであれば、およそ2000〜3000円での作成も可能になる。また、プロ向けの高精細3Dプリンタを使用していることから、アクリルであればなんと、髪の毛よりも細い16ミクロン単位で成形が可能。「球体のカゴの中に星のオブジェを入れる」など、人の手では実現不可能な中空構造も3Dプリンタなら実現できる。
だが、大きな疑問が残る……。ビデオ・オン・デマンド事業やFX投資などで有名なDMMが、なぜ3Dプリンタを手掛けるのだろうか?
「根っからのオタク」を自称する松栄立也・DMM社長は「(Windows95が発売された)95年よりも、3Dプリンタの出現のほうが衝撃的。元祖日本製パソコンであるNECのTK-80に初めて触れた時と同じような衝撃を感じています!」と興奮を隠さない。「インターネット黎明期も、巨大資本が参入せず、マニア同志が本当に楽しみながら情報交換をしていた。その頃の楽しさを3Dプリンタは持っているんです」とキラキラとした目を輝かせながら自慢の愛機を見つめる目は、かつてのオタク少年そのものだ。
「何でもつくれる」からこそ、まだまだ多くの魅力が埋もれている3Dプリンタ。「天才が現れて、想像もつかない何かを生み出してくれるはず。そのためにも、今後システムのAPI(プログラミングインターフェース)の公開を予定していたりと、幅広い方々にご利用いただけるようなサービスを目指していきます。」(松栄社長)と語るオタク社長の心には、新たなテクノロジーへの熱い想いが燃えている。
(文=萩原雄太)
●3Dプリントサービス「DMM 3Dプリント」