就職に強い大学に異変?理系女子争奪戦、早稲田大に圧勝の慶應、法学部凋落…
最近の就職戦線の傾向は、理系の女子学生、通称「理系女(リケジョ)」の人気だ。
「『女性は柔軟性が高く、目まぐるしく変わるビジネス環境に対する適応能力が高い』(大手企業の採用担当者)ことも人気の秘密だ。その上で、理系であれば『実験やゼミなどでしごかれているため、論理的な思考力など、素養がしっかりしている。しかも数学を勉強し、さまざまな分野で応用が利くことが強み』(同)だという」
理系女子を奪い合う就職戦線
リケジョは普段は、実験室や研究室にこもりっぱなし、就職も大学の推薦枠で決めてしまうから、採用にこぎ着けられない。これまで、銀行や外資系金融機関といった、文系の学生を中心に採用していた企業までもが、理系学生の市場になだれ込んでおり、小さなパイを奪い合う、リケジョ争奪戦の様相を呈しているのだという。
また、技術志向も強い。1993年に、日本初のコンピュータ理工学に特化した公立大学として誕生した会津大学は、IT企業ではやっているプログラマーがチームを組んで短時間で新しいサービスを開発する「ハッカソン」という手法を取り入れている。実践を積んできた学生たちは“注目株”で、大学が主催するセミナーに120社もの企業が参加する盛況ぶり、就職率は大学院で98%と、極めて高いという。「即戦力」をとなる理系人材のニーズが高まっているといえそうだ。
「週刊ダイヤモンド」が全国の638大学を対象に独自にまとめた「就職に強い大学総合ランキング」のトップ10も1位:一橋大学、2位:名古屋工業大学、3位:東京薬科大学、4位:お茶の水女子大学、5位:東京大学、6位:昭和薬科大学、7位:大阪市立大学、8位:京都薬科大学、9位:東京外国語大学、10位:東京理科大学というランキングになっており、「就職には定評のある一橋大を筆頭に、工業大学や薬科大学といった理系の大学がずらりと並び、“理高文低”を印象づける。理系のある女子大学もランクインするなど、『リケジョ』ブームも裏づけられた形」になっている。
特集記事では、より詳細に分析するために、全国2100学部・大学院を対象とし、学部ごとの就職率を他誌に先駆けて初めてランキング化している。関心のある読者には面白いだろう。
慶應が早稲田に圧勝の就職率
必読は、「特集記事Part1 躍進遂げる理系の実力」の早稲田大学と慶應義塾大学の学部別就職率の比較だ。なんと、慶應の全体の就職率は86.1%で、早稲田は79.9%と慶應が圧勝しているのだ。慶應の就職率を引っ張るのは、やはり理系の医学部、看護医療学部、薬学部だ。なお、慶應の薬学部は共立薬科大と合併して誕生した新学部だ。
こういった理系優位の現状では、文系学部が多く、地方出身者の多い早稲田にとっては厳しい。特集では鎌田薫早稲田大学総長にインタビュー、医学部進出の野望を問うている。「病院を譲渡したい」などといった話は結構持ち込まれているというが、経営となれば「維持費用がたいへんで、ベッド数も必要です。苦労した上で慶應の背中を追うというのでは、意味がありません」と否定的だ。
慶應の特徴として記事では、「あの銀行員・半沢直樹も出た慶應大の文系学部が経済界の中心に君臨」というエピソードを紹介している。確かに、「半沢直樹」シリーズの原作者の池井戸潤も、慶應出身。演出に名を連ねる福澤克雄は慶應の創立者である福澤諭吉の玄孫と、まさに慶應閥。現実に3メガバンクの幹部層の4割も慶應出身だ。就職の慶應ということだろうか。
一方、半沢直樹役を演じた堺雅人は早稲田だ。しかも、第一文学部中退という役者界の王道を歩んでいるが、まさに自由な校風・早稲田の象徴的な存在になりつつあるといえるかもしれない。
なお、「特集記事Part2 志願者激減 文系の窮地」では、名門・中央大学法学部の凋落がレポートされている。都心から離れたキャンパス移転も、かつての司法試験受験者にとっては誘惑から隔絶された理想的な受験環境とされたが、現在ではマイナスばかりが目立つ。さらに、大学・法科大学院で平均419万円にもなる借金をして弁護士になっても、ワーキングプアになりかねない法曹界の現実がロースクール不況を呼び、その影響をかつて法曹界の花形といわれた中央大学法学部をはじめとした有名大学の法学部が受けているというのだ。河合塾によれば、2010年に中央大学法学部の67.5あった偏差値は60.0にまでレベルが落ちている。
(文=松井克明/CFP)