桐谷さんに熱い視線が注がれている。
桐谷さんといえば、深夜番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系/毎週月曜23:59~放送)で、日常生活のほぼすべてを株主優待(企業が株主に自社の商品や優待券などを贈る制度)でまかなっている元プロ将棋棋士として紹介され、60歳超とは思えない自転車の立ちコギで都内を疾走し、株主優待を次々と消化する必死な姿が人気を博し一気にブレイク。桐谷さんが番組内で紹介した銘柄は、放送翌日高騰するという現象まで生み出している。
番組によれば、桐谷さんはプロ棋士時代に、証券会社に将棋を教えに行く機会が多く、そこで株を教わったのがきっかけで、株に目覚めたという。株を始めて5年で資産が2億円まで膨らみ、2006年1月には資産は3億円に。ところが同月、堀江貴文元ライブドア社長の逮捕で株式市場は暴落、さらに08年にはリーマンショックの煽りもあり、残された株の資産額は1億円になった。07年に棋士を引退しており、現在はこの1億円を元にアベノミクスの波の中で株式優待ライフを送っているのだ。
日本の上場企業の約4分の1にあたる1050社以上が株主優待を行っており、今月からNISA(ニーサ/少額投資非課税制度)も始まった。NISAとは、年100万円まで上場株式、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)、公募株式投資信託などへの投資を対象に、その売却益や配当金・分配金が非課税となる制度だ。
このため、各マネー誌もNISAを大々的にアピールしている。株の購入にあたって、初心者でも取り組みやすいのが株主優待だ。そこで、「株主優待といえば、桐谷さん」と、各所でひっぱりダコになっているのだ。
●経済誌で株主優待を紹介
「日経マネー」(日経BP社/3月号)の記事『優待四天王座談会』に桐谷さんは登場し、NISA向けお薦め銘柄を紹介している。
「まずはカメラのキタムラ。配当利回りが3.3%あり業績も順調。優待券は1000円ですがスタジオマリオの約9000円の撮影券が付いてきて、両方では20%近い優待利回りになります。次がシーボン。配当が3.8%あり、化粧品がもらえるだけでなくエステにも1回行ける。3つ目が雑貨のパスポート。配当が3%で525円の優待券が10枚来る。株価にも上昇余地があります。4つ目が昭文社。配当が3%以上あり、毎年3000円相当の地図が来る。私は都内を自転車で走り回る時に古い方の地図を破ってポケットに入れ、走りながら見てます。最後は鹿児島の学習塾の昴。配当が3.7%あり、8月の優待はリンゴ3kgです。5銘柄全部でも98万3500円で買えます。5年間持ち続けても高配当と優待が楽しめるものばかりです」と語っている。なお、日経BP社は昨年9月に『日経ホームマガジン 桐谷広人さんが教える株主優待ガイド』という別冊も発売している。
ライバル誌「ダイヤモンドZAi」(ダイヤモンド社/3月号)では、『株主優待 桐谷チョイス100!』とする50ページの別冊付録がすべて、桐谷さんのページなのだ。マンガあり、優待株の投資ワザ紹介ありの株式投資の魅力から、桐谷さんの魅力まで感じられる特集になっている。その中で気になるのは、「桐谷さんは1984年の失恋を機に株式投資を始めた。そしてその後も独身だ」という記述と、同誌の特集で初めてファンケルの株主総会に参加した際に、「当たり前なのかもしれないけど、『なんでも質問してください』という経営の姿勢が将棋連盟とは違って、とても“開かれている”感じがしましたね」と、暗に将棋連盟を批判している点だ。
これ以上は書かれていないが、いったい将棋連盟との間に何があったのだろうか?
●米長邦雄に婚約者を寝取られた
「週刊現代」(講談社/06年5月20日号、27日号)において、「こんな男がいま、将棋連盟会長として名人戦の移籍騒動を起こしています。米長氏の脳裏にあるのは、将棋連盟が弱体化しようが、いかにして独裁体制を敷くかということだけなのです」と将棋連盟会長(当時)の米長邦雄氏(故人)を徹底批判しているのは、「桐谷広人七段(56歳)」と記されている06年当時の桐谷さん。真剣な表情の顔写真入りで、米長氏を糾弾している。
当時、将棋界の最高位・名人戦は毎日新聞社主催だったが、米長氏が朝日新聞社主催への移行を表明。5年間で計27億円もの大金が朝日より将棋連盟に入ることもあって、名人戦の移籍を実現したい米長派と、従来の毎日との契約を順守したい反米長派が対立し、大騒動になった。