●サムスンの徹底的な人材管理
日本は、技術立国を掲げている。実際に、電機、自動車、医療など多くの分野で、日本企業は世界最先端技術を保有している。にもかかわらず、その技術力を競争力につなげることができない。いわば、「MOT(マネジメント・オブ・テクノロジー=技術経営)」が行われていないのだ。
とくに顕著なのが、技術をめぐる人材戦略の欠如である。韓国サムスングループを見てみよう。R&D(研究開発)に従事する従業員の数はグループ中核企業のサムスン電子だけで6万人以上を数え、グループ全体では7万3000人以上に上る。その中で、「戦略的人的資源管理」と称して徹底的な人材管理が行われている。
サムスンの驚異的成長は、同社にとって核心的な技術を持つ人材を確保し、育成してきた結果だ。「経営計画が実現できるかどうかは、99%が人事戦略とその実現にかかっている」と、同社の人事関係者は語る。
注目すべきは、外部からの“核心人材”の確保と、優秀な人材の維持、すなわち「A&R(アトラクション&リテンション)」戦略だ。サムスングループの中途採用者は、年間採用者の25%から30%にも上る。なかでも核心人材の獲得にかける執念は半端ではない。
まず、企業の長期的戦略に基づき、将来的に必要な技術について世界トップレベルの人材を、文字通り世界中から探し求める。なかでも「スーパークラス」の人材となれば、グループ会社社長が直々に出向き、スカウトする。用意する報酬額は青天井だ。戦略的人的資源管理では、リテンションストラテジー、すなわち維持戦略を重要視する。せっかく集めた超優秀な核心人材を他社に引き抜かれないように、手を尽くして守り抜く。
一方、日本企業は、もう10年以上も「サムスンが技術を盗む」と言い続けていながら、高度な技術を有する社員がサムスンに転職する理由を調べたり、頭脳流出に歯止めをかける努力をしてきていない。
●技術漏洩が日本企業の国際競争力低下を招く
実際、日本の最先端技術が海外企業に流出するのは珍しいことではない。例えば、3月、東芝の提携先企業であるサンディスクの元社員が、東芝の最先端技術であるNAND型フラッシュメモリの研究データを、韓国のライバル企業SKハイニックスに不正に提供した事件は、記憶に新しい。
しかしながら、このように表沙汰になるケースはごく一部だ。多くの企業は、起訴することで技術情報がオープンになるのを恐れたり、管理の甘さを指摘されるのを恐れるなどして表に出さない。また、技術が日進月歩の今日、最新技術といえども短期間で陳腐化するため、訴訟をして賠償金を得てもペイしないと判断し、争うのを見送る場合が多いのだ。
しかし、水面下で発生している多くの技術漏洩が、日本企業のグローバル競争力の低下を招くことは間違いない。泣き寝入りしては、相手の思う壺といっていいだろう。そうである以上、不正には断固とした対応をとり、再発防止に向けて「徹底的に技術を守る」姿勢を内外に示すことが重要だろう。