小売り・外食業では深刻な人手不足で、多様な働き方を人事制度として取り入れ、有能な人材を囲い込む動きが広がっている。パートの正社員への登用は大きな流れだ。
2012年9月、ヨーカ堂は正社員を半分に減らし、従業員のパート化比率を77%から90%まで高める方針を打ち出し、小売業界に衝撃を与えた。16年2月期までに8600人いた正社員を半減させると同時に、パートを2万8000人から7000人増やして3万5000人にする。パートの採用拡大で人件費を7%、100億円削減するというものだった。当時セブン&アイHDの鈴木敏文会長兼CEOは、改革の狙いをこう語っていた。
「今回は一大改革。スーパーのあり方を全部変える。イオンやイズミヤが利益率を維持できるのは、とっくに従来型の総合スーパーの運営に見切りをつけたからだ。ショッピングセンター事業を中核に据え、総合スーパーの“敵”だった専門店を導入。その集客力を取り込んだ事業モデルに転換した」(12年10月3日付日本経済新聞より)
ヨーカ堂の基本形は、衣食住の売り場を揃えた総合スーパー(GMS)である。収益構造を転換し、総合スーパーの運営を抜本的に見直す。その答えがパートの手でGMSを運営するというものだった。ヨーカ堂のパート従業員は、リーダー、キャリア、レギュラーの3段階に分かれている。大改革では、全体の10%弱にまでリーダーを増やし、正社員を半減させた後の業務をリーダーに肩代りしてもらうという。
ヨーカ堂の大改革は聖域だった正社員の見直しに踏み込む一方で、パートを徹底的に鍛えて戦力化する点に特徴があった。店長もパート、売り場の責任者もパート、現場店員もパートというパート中心の運営でGMSの再生に挑むつもりだった。単なる人件費の削減ではなく、日本の雇用形態を根底から突き崩しかねない改革だった。
●業績大幅改善
この取り組みは、業績にどう反映されたのか。改革前の12年2月期と、改革進行中の14年2月期の単独決算を比較してみると、売上高は1兆3342億円から1兆3111億円へ231億円減少する一方、販売費及び一般管理費は3509億円から3357億円へ152億円減少した。そのコスト削減効果で、当期純利益は5億円から53億円へと10倍に増えた。セブン&アイHDの14年2月期の純利益は1756億円と最高益を更新し、利益の大半はセブン-イレブン・ジャパンによるものだが、赤字転落寸前だったヨーカ堂の業績が改革で持ち直しつつあることがうかがわれた。