現在ルネサスが取り組んでいる「変革プラン」で、財務基盤の安定に向けた構造改革に一定のメドがついたことを、作田CEOの退任の理由に挙げている。今後、取り組みを加速させるために、豊富な知見・経験と実績を持った新しいリーダーシップが必要だと判断。新しいCEOを選定した、と説明している。
だが、この公式発表を信じる業界関係者は皆無に近い。筆頭株主の産業革新機構と、大株主のトヨタ自動車に解任されたとの見方がもっぱら。変革プランの実行をめぐり、作田氏とトヨタとの間に緊張関係が高まり、一触即発の状態になった。早晩、トヨタが動くとみられていた。
トヨタが経済産業省に働きかけて誕生した「日の丸半導体」
ルネサスは三菱電機、日立製作所から分社化して設立されたルネサステクノロジと、NECから分社化したNECエレクトロニクスが経営統合して、2010年4月に誕生した半導体メーカーである。
11年3月に発生した東日本大震災で自動車用マイコンの主力拠点である那珂工場(茨城県ひたちなか市)が壊滅的な打撃を受け、再生のスタートラインに立つまでに長いこと足踏み状態が続いた。12年夏、債務超過への転落を回避するため、当時の赤尾泰社長が米投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に出資を要請したと報じられた。
これに猛反発したのがトヨタだった。燃費や走行性能を左右するエンジンユニットに組み込む車載用マイコンでルネサスのシェアは42%の世界首位、トヨタがハイブリッド車(HV)に使うマイコンはすべて特注品でルネサスが納入していた。KKRが経営権を握れば、顧客の要望に応じた特注品の生産を減らし、数で勝負でき、儲けが大きい汎用品しかつくらなくなる恐れがあった。「(KKRの傘下に入れば)新車開発に支障が出かねない」と判断したトヨタの要請を受けて、経済産業省が巻き返しに出た。
「外資から日の丸半導体を守れ」。12年12月、政府系投資ファンド・産業革新機構とトヨタなど顧客企業8社が1500億円の第三者割当増資を引き受けるスキームが決定した。産革機構が1383億円、8社は117億円を出資。革新機構の持ち株比率は69.16%で、筆頭株主となった。出身母体のNEC、日立製作所、三菱電機の持ち株比率は6~9%に低下し、主要株主ではなくなった。
出資比率が決まっても、トップの人事は難航した。更迭した赤尾社長の後任に鶴丸哲哉取締役を昇格させることで幕間つなぎをした。本命候補としてソニーの吉岡浩・元副社長など有力者に接触したが実らず、最終的にはオムロンの作田久男会長(当時)の起用にこぎ着け、13年6月の株主総会とその後の取締役会で、ルネサス会長兼CEOに正式に就任した。同年9月、革新機構やトヨタなどから合計1500億円の出資手続きが完了、ようやく再スタートを切った。