セブン&アイ・ホールディングス(HD)の鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)の次男・康弘執行役員が、5月28日に開催される同社定時株主総会で取締役に昇格する。小売り業界内では、敏文氏が康弘氏を後継者にすることを社内外に宣言したものと受け止められている。
康弘氏は1987年、武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部電気工学科を卒業後、富士通にシステムエンジニアとして入社。96年、ソフトバンクに転職し、99年8月には書籍のインターネット通販会社イー・ショッピング・ブックスを設立して社長に就任した。2009年12月にセブン&アイHD傘下に入り、セブンネットショッピングに社名変更した。
セブンネットの業績は超低空飛行を続けていたが、14年3月、セブン&アイHDの中間持ち株会社セブン&アイ・ネットメディアがセブンネットを吸収合併。吸収された側の康弘氏が、吸収したセブン&アイ・ネットメディアの社長に就任するとともに、セブン&アイHDの執行役員に昇格した。
セブン&アイHDの孫会社社長でくすぶっていた康弘氏は、子会社社長に格上げとなり、本体の執行役員に名を連ねた。さらに14年12月には、新設された最高情報責任者(CIO)に就いた。そして今回、取締役に昇格するわけだが、わずか1年余で異例の出世を遂げた格好となる。
康弘氏はCIOとして、実店舗とインターネットを融合させるオムニチャネル戦略推進を統括する。オムニチャネルとはスマートフォン(スマホ)の普及を背景に、インターネットやカタログ、実店舗などあらゆる販路を組み合わせて、いつでもどこでも買い物ができるようにすることを指す。最近では、さまざまな企業が新たな戦略として、オムニチャネルを掲げている。
セブン&アイHDが掲げるオムニチャネル事業の売り上げ目標は1兆円だ。「同事業での目標達成を実績に、敏文氏の後継者として康弘氏をCEOへ昇格させるというシナリオが整えられている」(業界筋)ともいわれる。流通担当アナリストは語る。
「敏文氏は当然、康弘氏を自身の後継者にしたい。敏文氏の意向に異議を唱える硬骨漢は社内にはいないので、康弘氏のCEO就任に正面切って反対する声は出てこないでしょう」
独り勝ちの死角
コンビニエンスストア業界では、ファミリーマート(中山勇社長)がサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングス(佐古則男社長)との経営統合協議を進めている。この統合についてコンビニ最大手セブン-イレブンを展開するセブン&アイの敏文氏は、「関心がない」と公言している。コンビニ各社が束になってもビクともしない収益力をセブンが誇っているとの自信の表れだ。