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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」(6月18日)

マック、世界的“客離れ”深刻化は、もはや歴史的必然で不可避である 間違い続ける戦略

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授

 なぜなら、マクドナルドが低迷している業績を改善するために、どのような再建計画を立てようとも、価値観の変わった消費者を取り戻すことはできない。米国マクドナルドの再建策には、次のようなものがある。

(1)直営店を売却し、フランチャイズの割合を現在の81%から90%に引き上げることによるコスト削減
(2)グローバル市場の管理体制を、現在の地域別から、市場の経済成長レベルなどの状況に合わせて変える
(3)客が具材を自分で選べるパーソナライズ(オーダーメイド)ハンバーガーの提供
(4)抗生物質を投与した鶏肉の使用を2年以内に停止し、成長ホルモン剤を投与していない乳牛の牛乳に切り替える

 しかし、こういった再建策は根本的な問題解決にはならないというのが一般的意見だ。

経済レベルとともに変わる価値観

 20世紀には、まだ肉が富のシンボルだった。肉をたくさん食べられるということは、金持ちである証しだった。所得の少ない家庭は、1週間に1回しか食べられなかった牛肉を「収入が上がって、週に2回食べられるようになるといいなあ」と願っていたものだ。

 歴史をもっとさかのぼれば、多くの文化において肥満体が富の象徴であり、「痩せた人間は、すなわち貧乏である」という概念が一般的だった。中国の唐の時代では、理想の美女はふくよかに肥えていなくてはいけなかった。太め体形のお笑いタレント・渡辺直美が当時にタイムスリップしていれば、第二の楊貴妃になっていたかもしれない。西洋でも、19世紀から20世紀初めには、まだ、ルノワールが描いたような太った女性が美の基準だった。1825年に『美味礼賛』を出版したフランスの美食家ブリヤ=サヴァランは次のように書いている。

「肥満は未開人には見られない。同じく、食べるために働き、生きるためにのみ食べる階級の人間にもあり得ない」

 開発途上国や新興国でも、経済レベルが上がる最初の段階では、肉を食べることがお金持ちの証しとなり、肉の消費が急激に伸びるものだ。その段階を越えて経済レベルが上がると、今度は肉を食べないことが洗練されたお金持ちの証しとなる。世界の先進国のどこもが通ってきた道だ。太っていることではなく、スマートに(健康的に)痩せていることが、美の基準となる。こういった価値観の変化にマクドナルドの再建策では対抗できないと、市場関係者の多くが考えているのだ。

 確かに、それでも肉が好きなセグメント(消費者集団)、ジューシーなハンバーガーには目がないセグメントは、どの時代でも必ず存在する。例えば、日本発祥のハンバーガーチェーンであるモスバーガーは、安全で安心できる高品質のハンバーガーを食べたいセグメントにアピールしている。

 ただし、価格はマクドナルドより高い。マクドナルドは100円バーガーを売っているが、モスバーガーは一番安くても2倍の220円だ。その売り上げを比べてみると、両者の差は非常に大きい。14年度の売上高2200億円を超える日本マクドナルドに対して、モスバーガーを展開するモスフードサービスは約660億円と、約3倍の開きがある。

 同じように、米国で高級グルメバーガーとして人気を呼ぶファストカジュアル・チェーン店であるシェイク・シャックは、自然の環境で放し飼いの牛の肉を使うことで急成長しているといわれる。しかし、14年度の売上高は1億1900万ドル、一方のマクドナルドは減少傾向とはいえ、まだ270億ドルの売上高を記録している。

多様化する価値観をマクドナルドはどう取り込むのか

 21世紀の消費市場には、異なる価値観を持ったさまざまなセグメントが存在する。モスフードにロイヤルティの高いファンのセグメントが存在するとしても、マクドナルドにはなれない。シェイク・シャックやチポトレのような新興勢力がいくら急成長しようとも、マクドナルドの売り上げに追いつくことはできないだろう。

 一方で、マクドナルドファンのセグメントが縮小し、売り上げの減少を食い止めることができないのも事実だ。だからこそ、豊富な資金がなくなる前に異なるブランドを買収して傘下に収め、異なる価値観を持ついくつかの消費者セグメントにアピールすることにより、先進国における今後の成長を続けていくしか方法がないのではないか。M&A(合併・買収)による多様化で、価値観の変化に対応するというわけだ。

 ところが、マクドナルドは、それとはまったく反対の戦略を実行した。06年ごろに、チポトレの株式を売却するとともに、同じくファストカジュアルの有望株であったボストンマーケットや、ピッツァチェーン、英国のサンドイッチ・チェーン店の株式も売却した。

 マクドナルドは、なぜ戦略的に間違ったと見なされるような決断をしたのか。次回、そのあたりを詳しく見ていこう。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授)

ルディー和子/マーケティング評論家

ルディー和子/マーケティング評論家

早稲田大学商学学術院客員教授。
国際基督教大学卒業後、結婚・渡米を経て帰国、
米化粧品会社のエスティ ローダー社で働きながら
上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。
エスティ ローダー社ではマーケティングマネジャー、
出版社タイム・インク/タイムライフブックス社での
ダイレクトマーケティング本部長を経て、
マーケティング・コンサルタントとして独立、
自身の会社ウィトン・アクトンを設立
ルディー和子オフィシャルブログ

Twitter:@shouhigaku

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