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宇多川久美子「薬剤師が教える薬のリスク」

降圧剤は要注意!安易な服用は命の危険?脳梗塞、認知症、意識障害の恐れも

文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士
降圧剤は要注意!安易な服用は命の危険?脳梗塞、認知症、意識障害の恐れもの画像1「Thinkstock」より

 降圧剤は、最も市場規模の大きい薬です。そのため何百種類もジェネリック【後発医薬品:新薬の特許期限が切れた後に販売される、新薬と同じ有効成分の薬】があります。しかし、最近まで降圧剤先発薬が使われるケースが多かったように思います。ジェネリック医薬品のメーカーには先発薬メーカーほど技術的な蓄積がないため、服用後短時間で効果が表れ、急激な血圧低下を起こすケースが少なくなかったからです。血圧が一気に上がることは危険ですが、一気に下がることも同じくらい危険なのです。ふらつき、頭痛、体調不良などを引き起こすからです。

 そのため、ジェネリックの降圧剤は、医師の間で不人気な状態が続いていました。

 しかし、ここにきて状況が大きく変化しました。最も売り上げの多い「ブロプレス」(武田薬品工業)と2位の「ディオバン」(ノバルティスファーマ)の特許期間が相次いで終了し、「オルメテック」(第一三共)と「ミカルディス」(販売:アステラス製薬、製造:日本ベーリンガーインゲルハイム)も特許の期限切れが近づいているのです。

 降圧剤を必要としている人にとっては一生付き合っていく薬ですから、先発薬と同等の効果が期待できて安全性にも問題がなければ、これを機会にジェネリックに乗り換えようと考えている人も多いのではないかと思います。ジェネリックに替えれば、30年服用した場合、保険適用・3割負担として4~20万円も節約できることになるのですから、当然といえます。

 そうした旺盛な需要を見越して、メーカー側も力を入れています。ディオバンが特許切れになったあとは、各社から厚生労働省に降圧剤ジェネリックの製造申請が相次ぎ、34社140品目が承認され、すでに販売されています。共通薬品名は「バルタルサン」です。

 ブロプレスに関しても、すでに「カンデサルタン」という共通薬名で販売されています。降圧剤は、今後も人気薬の特許期限切れが続くので、“ジェネリック・ラッシュ”はさらに激化することが予想されます。

ジェネリックは先発薬より質がいい?

 このような状況で、患者はどのような選択をすべきでしょうか。

 最も無難なのは、オーソライズド・ジェネリックです。これは先発薬のメーカーが作ったジェネリックのことで、製造元は子会社か提携会社になっているため薬の形は違いますが、同じ原料と添加物を使って同じラインで製造しているので、先発薬と同等か、それに近い効果を期待できます。

 それでいて価格は先発薬のおよそ半分に設定されているので、メリットは大きいといえます。先発薬を製造販売する大手製薬会社が、その子会社や別会社名義でオーソライズド・
ジェネリックを製造するのは、長い間保持してきた先発薬のシェアを可能な限り保持していたいとの考えによります。オーソライズド・ジェネリックは、先発薬開発メーカーから特許の使用許可を得ることによって、特許切れの前から半年(180日間)の独占販売が認められています。先発薬とまったく同じジェネリック医薬品を先行で販売し、この間にシェアを獲得しておくのです。

 先発薬と同じものが、他のジェネリックと同じ価格で手に入るので、オーソライズド・ジェネリックがジェネリック市場で圧倒的に有利なポジションにいることは疑いようがありません。

 ただ、ジェネリックの大手メーカーは、水なしで飲めるOD錠(口腔内崩壊錠)にする、薬の表面に薬剤名を刻み、多剤併用患者がほかの薬と混同しないようにするといった付加価値を付けて対抗する動きを見せているので、定期的に薬剤師から情報を提供してもらうといいでしょう。

 薬の世界では、ジェネリックのほうが先発薬より質がいいという下剋上がしばしば起きます。そうした情報は、ジェネリックを主体として薬を飲む患者にとって不可欠のものです。

降圧剤を飲むと脳梗塞の危険?

 数多くのジェネリック降圧剤が発売され、たくさんの高血圧患者が服用するのは、脳出血を恐れている人が多いことの表れだと思います。

 しかし、降圧剤を飲んでいても、脳出血の一つである脳梗塞が起きてしまうことがあります。脳出血を防ぐために血圧の薬を飲んでいるのに、なぜ脳梗塞が起きてしまうのでしょうか。

 脳梗塞は、脳の血管に血栓が詰まり、その先の組織に酸素や栄養が行かなくなることで、さまざまな障害が生じる病気です。酸素や栄養が届かずに壊死した組織が軟らかくなるため、一昔前は脳軟化症と呼ばれていました。

 1960年代には、脳梗塞は脳卒中全体の13%程度でしたが、食生活の欧米化などにより増え続け、現在は84%を占めるまで増えています。

 脳の血管に血栓ができること自体は珍しくなく、これが即、脳梗塞につながるわけではありません。血栓ができても、人の体は血を送り出す圧力を高めて血栓を押し流してしまうからです。血栓ができると血圧が高くなるのは、そのためです。

 しかし、降圧剤で無理に血圧を下げてしまうと、血栓を押し流せなくなってしまいます。そうなると血栓が居座って肥大し、血管を完全に詰まらせてしまいます。その結果、脳梗塞が起こりやすくなるのです。

 お酒をよく飲む人は、意識障害のリスクもあります。アルコールが体内に入ると血圧が低くなりますが、降圧剤を服用していると相乗効果が生じ、血圧が下がりすぎることがあるからです。家の中でなら、ふらついてもさほど問題は起きませんが、冬場に公園のベンチなどで寝てしまったら大きな事故につながりかねません。

 また、入浴時の溺死にも注意が必要です。温かい湯船に入れば、まずは一気に血圧が上がりますが、そのあとはどんどん下がってくるのです。血圧が下がると居眠りをしがちですが、特に降圧剤を服用している人は下がりすぎて意識障害が起きやすくなります。あまり知られていませんが、日本で入浴中に死亡する人は年間約2万人もいるのです。これは、日本における交通事故死の約5倍の数字なので、浴室での意識障害を甘く見ることはできないのです。

 さらに高齢者の場合、降圧剤の影響で脳の血の巡りが悪くなるために、脳内に酸素や栄養が行き渡らないので脳の活動が阻害され、脳血管性の認知症になる可能性もあります。

 このように降圧剤は、血圧の下がりすぎによるリスクもあるので、医師に勧められたからといって、深く考えもせずに飲み始めるのは考えものです。

 要注意なのは、「ちょっと血圧が高めなので、降圧剤を飲んだほうがいいでしょう。弱いお薬なので、安心して服用できます」といった医師のセリフです。

 血圧が高くなった原因に心当たりはないか、本当に薬の服用が必要か、薬以外の方法で血圧を安定させることはできないか、ご自身でよく考えてください。決断するのはあなた自身です。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士

薬剤師として20年間医療の現場に身を置く中で、薬漬けの治療法に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は、自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を生かし、感じて食べる「感食」、楽しく歩く「ハッピーウォーク」を中心に、薬に頼らない健康法を多くの人々に伝えている。『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)、『薬が病気をつくる』(あさ出版)、『日本人はなぜ、「薬」を飲み過ぎるのか?』(ベストセラーズ)、『薬剤師は抗がん剤を使わない』(廣済堂出版)など著書多数。最新刊は3月23日出版の『それでも「コレステロール薬」を飲みますか?』(河出書房新社)。

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