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「ココロに効く(かもしれない)本読みガイド」山本一郎・中川淳一郎・漆原直行

ネット炎上は、すぐ忘れられるので恐れる必要はない 難しい「スルーor謝罪」の見極め

文=山本一郎

ネット炎上は、すぐ忘れられるので恐れる必要はない 難しい「スルーor謝罪」の見極めの画像1『ネット炎上対策の教科書』(日経BP社/小林直樹著、日経デジタルマーケティング編)
【今回取り上げる書籍】
ネット炎上対策の教科書』(日経BP社/小林直樹著、日経デジタルマーケティング編)

 炎上、怖いですね。私も2006年頃、あるファンドでご一緒している方も巻き込み、意味のわからない難癖をインターネットでつけられ炎上気味になったことがあり、それ以来、自分の仕事のコアなネタや財布に関わることはネットに掲載したり触れたりしないようになりました。自分自身が言いがかりをつけられたりつけたりするのは自分の問題ですからどうにでも処理すればよいのですが、やはりお世話になっている先に延焼したときは、遠慮なく裁判沙汰にすることで処理するしか方法はなくなります。

 とはいえ本書であるように、炎上は「プレ」と「アフター」をきちんと見極めることで、ネット活用におけるリスクマネジメントをいざという時のために考えておくというのは重要なことです。ネットと一口にいっても、その向こう側にいるのは機械でも架空の存在でもなく、生身の人間の集まりである以上、炎上の理由や経緯も踏まえた初動が悪ければ、どうにも手の打ちようがなくなるのもまた事実だからです。

 際どいのは「スルー」か「謝罪」かの見極めで、どう捌くべきかは何度か炎上してみないとなかなかわからないことです。つまり、何かネットで言いがかりがついた時に、仮に事実無根だとして相手にしない、取り合わないようスルーした時に、既成事実として独り歩きしてしまうことがあり得ます。ネットならではの現象で、放置してしまったがゆえに、いつまでもネット上にそういう望ましくない情報が残ってしまうという残念な結果はたくさんあります。

 一方で、謝罪であれ釈明であれ、問題に関心を持つ人たちにとっては燃料となります。反応することそのものが、話題を提供することになり、再炎上することもあります。何も言及しなければ穏やかに収まったかもしれない問題なのか、きちんとお詫びしてネット住民と向かい合ってビジネスを継続するつもりなのか、いろんな考え方がネット対策にはあります。解がひとつでない以上、何度か失敗して模索しながら体感でネットとの付き合い方、間合いの取り方を考えなければならないのです。

「炎上しても、たいていは忘れられる」

 去年までは、いわゆるネット右翼対応は非常に重要なテーマでした。いわゆる反韓デモに始まり、少しでも韓国に迎合的な企業は売国組織と名指しされ、攻撃の対象となるのはフジテレビや花王といった大手企業も含まれていました。また、ネット住民にとって常に「ヘイト値」が高く嫌われる業種の定番はマスコミ関連でもあり、外食などのブラック企業、似非ベンチャーなども同様です。そのコンテクストは概ねコンプレックスやルサンチマンが含まれ、いくら企業側が謝罪し事実関係を説明しても、収まることは少ないです。

 また、ネットの中で愛されてきたはずの企業が、ちょっとしたきっかけで炎上に巻き込まれるケースもさまざまあります。それも、自信を持って提案したはずの新サービスや、良かれと思って公開した動画がきっかけとなって、思いもよらぬ炎上に見舞われるのは、日常的なことです。

 そういう炎上ネタをめぐっては、炎上自体をサーチし見物に来るウォッチャーと呼ばれる謎の人種も多く存在し、炎上の理由や経緯を見て良し悪しをチェックし、琴線にかかるものは拡散して、さらに多くのネット住民が炎上した経緯を見にやってくるという好循環が発生してしまうわけです。

 本書でも基本的なことはしっかり網羅されておりますが、個人的にはネットの炎上をしたりされたりする中で経験として学んだことは、自分なりの誠実な活動を続けていけば「炎上しても、たいていは忘れられる」という事実です。つまり、あまり炎上すること自体を恐れる必要はないということです。堂々と自信を持ってネットでコミュニケーションし、悪いと思ったらさっさと謝り、たいした話でなさそうならスルーしつつ、行き過ぎた攻撃は発信者情報開示請求をして個人特定を行い粛々と訴えながら、このネット社会に根を下ろし暮らしていくのだと腹を括ることだと思います。

 突き詰めれば、こちらも人、相手も人であって、ネットである以上はいろんな人がそこにいます。まともな人もいれば、そうでない人もいます。ネットの特性としてまともな人だけ相手にするのが難しい以上、まともでない人に絡まれないよう隙をつくらないことが、企業におけるネット炎上対策の最重要課題であると、本書でもきちんと書かれていてお奨めです。

押し引きのタイミング

 野次馬として一言書くとするならば、やはり炎上は面白いです。真面目にやっている人同士が相対しているのは、将棋や野球のようなスポーツに近い楽しみ方があります。一方で、物事は絶対にどちらかが正しいということはなく、必ずあるべき落としどころが存在するものです。

 一番いけないのは、アツくなりすぎて落としどころを見失い、いつまでもグズグズと炎上し続けることであって、たいした話でもないのにダメージがどんどん大きくなってしまいます。この押し引きのタイミングはネットに限るものではないので、うまく相手の心情を見極めながら対応されることで、炎上しても快適なネット活用ができるようになると思います。

 ぜひ本書で実例を見て、「ああ、これは私だったらこう対応するなあ」という問題意識を持ちながら読み進めていただければ幸いです。
(文=山本一郎)

山本一郎

山本一郎

 2000年、IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。ベンチャービジネスの設立や技術系企業の財務・資金調達など技術動向と金融市場に精通。2007年より、総予算100億円超のプロジェクトでの資金調達や法人向け増資対応を専門とするホワイトヒルズLLCを設立、外資系ファンドの対日投資アドバイザーなどを兼務。

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