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ヘーベルハウスの危機、壊滅的な売上減…三井住友建設、違法状態放任を平然と認める異常さ

文=編集部
ヘーベルハウスの危機、壊滅的な売上減…三井住友建設、違法状態放任を平然と認める異常さの画像1「Thinkstock」より

 杭工事のデータ偽装問題で国土交通省は1月13日、傾きが見つかった横浜市マンションの杭工事に関わった3社に対して建設業法に基づき行政処分を科した。元請けの三井住友建設には業務改善命令と国交省発注の指名停止1カ月、1次下請けの日立ハイテクノロジーズと2次下請けの旭化成建材には営業停止15日間と業務改善命令が出された。

 旭化成建材は杭打ち工事で現場責任者が記録の紛失を取り繕うため、70本の杭データを偽装していた。日立ハイテクは施工計画書の作成や工程調整を2次下請けの旭化成建材に丸投げ(一括下請け)していた。丸投げは建設業法で禁止されており、営業停止処分の対象となった。建設業法では、2500万円以上の大規模工事の請負業者に専任の主任技術者配置を義務づけているが、両社ともに主任技術者に複数の現場を兼任させていた。

 日立ハイテクの主任技術者は計5工事を掛け持ちし、3カ月の工期中、現場にいたのは14日以下。旭化成建材の主任技術者も計3工事を兼任し、12日しかいなかった。

 元請けの三井住友建設は2社の違反を知りながら改善を指導せず、行政への報告を怠っていた。国交省は、ずさんな工事管理がデータ偽装の一因となったとみて、元請けの責任を問うことにした。下請け2社は周知期間を経て1月28日から15日間、関東甲信地方で新たな工事の受注など営業活動ができない。元請けの三井住友建設は1カ月間、国交省発注の指名競争から外される。

 相次いで発覚した杭打ちデータ不正問題で、国土交通省の有識者対策委員会は昨年12月25日、中間報告を公表した。報告書は、建設や不動産業界が抱える構造的な問題といわれる「責任や役割が不明確」な点に言及した。

 中間報告は、企業の姿勢を厳しく批判する内容だった。三井住友建設の永本芳生副社長が2015年11月11日の決算発表の席上で「旭化成建材を信頼していた。裏切られた」と発言したことに対して、「三井住友建設は元請けとして工事全体に一義的な責任を負う立場にあるにもかかわらず、問題発覚後も、その責任を十分に果たしていなかった」と指弾した。永本氏は三井住友銀行出身。

 日立ハイテクへの言及も辛辣だ。施工計画書を旭化成建材に作成させ、ほぼそのまま元請けに提出するなど「実質的に施工に携っていなかった」と指摘した。これは建設業法が禁じている丸投げにあたる。

 国交省は有識者委の中間報告を踏まえ、元請けの責任を果たしていないと判断した三井住友建設と丸投げの日立ハイテクに厳しい行政処分を下した。杭打ちデータの偽装を実際に行った旭化成建材は罪一等を減じられた格好だ。

責任のなすり付け合い

 行政処分は補償費の分担をめぐる交渉に多大な影響を及ぼすことになる。販売元の三井不動産レジデンシャルは、傾斜した建物を含む4棟の建て替えを住民に提案した。工事費に住民の引越し代や仮住まいの費用などを加えると、300億円程度の大工事になる。三井不動産レジデンシャルが一時的に負担するが、その後、元請け、下請けに応分の分担を求めることになる。

 事態が発覚した10月14日直後から、元請けの三井住友建設と下請けの旭化成建材との間で、責任のなすりつけ合いが続いた。三井住友建設はデータを改ざんした旭化成建材の施工ミスと主張。一方、旭化成建材は杭の長さが不十分だったと述べ、三井住友建設の設計ミスを指摘した。責任を相手に押し付け、補償費の負担をできるだけ軽くしたいという意図が見えた。有識者委の中間報告は、この点について「(両社の間で)認識に齟齬がある」という表現にとどめた。

 横浜市はすでに、ボーリング調査を三井住友建設側に指示。ボーリング調査の結果で、杭の長さが適切だったかどうかなど、さまざまな問題が解明される。それまでは、補償費などの負担割合は決まらない。

 三井住友建設の新井英雄社長は1月13日夜、都内で初めて記者会見した。会見で新井氏は永本副社長が「旭化成建材に裏切られた」と発言したことについて問われ、「不適切な表現だったと思う」と述べた。横浜の現場に以前あった建物より短い杭を選んだことの是非についても「結果的に適切ではなかったということだ」とミスを認めた。

 永本氏は決算会見で、1次下請けの日立ハイテクの主任技術者が工事現場にほとんどいなかったことや、2次下請けの旭化成建材と直接やりとりしていたことに言及し、違法状態を事実上放任していたことを、あっけらかんと語っていた。新井氏は「(三井住友建設の現場の担当者らに)専任でないことが違法だとの認識がなかった。教育で是正する。私が確実な情報として(事実を)把握したのは昨年10月末だった」とした。新井氏は旧住友建設の出身で、土木一筋で歩いてきた人物だ。メインバンクの三井住友銀行が新井氏の社長続投を認めるのかどうかにかかっているが、経営責任は免れないだろう。

旭化成ホームズに大打撃

 杭打ちデータ偽装問題は、旭化成の業績を直撃した。純粋持ち株会社である旭化成は傘下に「ケミカル・繊維」「住宅・建材」「エレクトロニクス」「ヘルスケア」の4事業を持つ。

 イメージダウンで最も深刻な影響が懸念されているのが、「住宅・建材」事業である。

 事業の中核である「へーベルハウス」のブランドで知られる住宅メーカー、旭化成ホームズが逆風にさらされている。住宅事業の16年3月期の売上高は5870億円、営業利益は620億円を見込んでいる。売り上げは全社の3割弱、営業利益は4割弱を占める稼ぎ頭だ。旭化成ホームズは戸建住宅では、積水ハウス、大和ハウス工業に続く第3勢力に浮上していた。

 しかし、大手住宅メーカー7社の15年11月の戸建て注文住宅の受注状況(金額ベース)によると、旭化成ホームズ(アパートを含む)は前年同月比16%減と大幅に落ち込んだ。パナホーム、大和ハウス工業、三井ホームは同4~9%伸びており、明暗を分けた。

 旭化成建材の杭打ちデータ改ざん問題の余波で解約が増えたことに加え、広告宣伝を自粛した影響が出た。問題が発覚した10月の段階では受注は3%増え、過去最高を記録していたが、11月に至ってマイナスに転じた。全社的に販促活動を進めるのは難しく、問題の長期化によるイメージの悪化は予測不能である。

 旭化成建材による杭打ちデータ偽装問題の拡大で、親会社である旭化成の業績への影響は深刻である。旭化成は15年11月6日、16年3月期連結純利益の見通しを下方修正した。売上高は前期比0.7%増の2兆円、営業利益は3.8%増の1640億円と当初予想を据え置いたが、純利益は13.9%減の910億円(当初1060億円)に引き下げた。16年4月に行う組織改正に合わせたシステムの改修費用が最終減益の理由だとしている。

 今後、マンションの建て替えや住民への補償などが具体化すれば、その対策費用を引当金に計上するため、業績は大幅な下方修正が避けられない。旭化成建材が国交省から行政処分を受けたことから、補償額がほぼ確定する段階で役員の処分が行われる。親会社である旭化成社長の浅野敏雄氏の引責辞任は免れないだろう。

 涙の謝罪会見で有名になった浅野氏は東京大学薬学部卒。旭化成入社後は医薬品畑一筋で、ヘルスケア(医薬・医療)部門である旭化成ファーマ社長から14年4月、本体の社長に抜擢された。同部門出身者の社長就任は初めてだった。旭化成の中核事業は合成繊維から、住宅、エレクトロニクスへ広がっているが、ヘルスケア事業を第3の柱にするのが浅野氏の使命だった。

 旭化成は16年4月から事業を再編する。ヘルスケア事業はジェネリック(後発医薬品)に押されており、ケミカル事業も中国経済の失速で収益が悪化している。その上、稼ぎ頭の住宅事業に影響が出てきた。事業の再編に暗雲が漂う。

株価に影響

 旭化成会長の伊藤一郎氏は、旭化成建材が行政処分を受けたことで、経団連の審議員会副議長を辞任する公算が高い。もし辞めれば、東芝副会長(当時)の佐々木則夫氏が粉飾決算問題で経団連副会長を辞任したのに続き、母体企業の不祥事による辞任となる。

 伊藤氏は東大経済学部卒。旭化成本流の繊維部門出身で、経営企画・戦略畑を歩き、新事業の創出や不採算部門のリストラで手腕を発揮した。10年に会長の山口信夫氏が亡くなったのを受けて会長に就いた。

 山口氏は旭化成のキングメーカーとして君臨し、10年9月に85歳で亡くなるまでの18年間、4人の社長を決めてきた。伊藤氏も山口氏のように社長を経験せずに会長になったが、山口氏のようになることを避けようと決めていた。

 伊藤氏は14年、子会社の旭化成ファーマ社長を務めていた浅野氏を旭化成本体の社長に起用。社長の藤原健嗣氏は副会長となり、6月の株主総会後に取締役も辞任した。伊藤氏は総会後、代表権のない会長となり、指揮系統を新社長に一本化。経営責任を明確にした。

 伊藤氏は傍流の浅野氏を起用することで、「死ぬまでトップに君臨する社風」に決別するというメッセージとした。ところが、旭化成建材の杭打ちデータ偽装問題で、浅野氏の引責辞任は避けられなくなった。伊藤氏が会長にとどまり、次の社長の人選をすることになるのが自然な流れだ。

 1月12日の東京株式市場では、三井不動産レジデンシャルの親会社、三井不動産の株価は昨年来安値をつけた。三井住友建設も同じく安値で、昨年の高値の半分。2ケタ(97円)まで株価は崩落した。

 三井不動産、三井住友建設がそろって昨年来安値になったのは偶然ではない。旭化成は安値(693.6円、昨年10月26日)から、およそ70円高い水準。旭化成と旭化成建材に責任を押し付け、世論・マスコミを操作したといわれている三井不動産、三井住友建設が株価の面でもバッシングを受けているのだ。
(文=編集部)

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