2015年に世界のビール業界に大事件が起こった。世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インべブ(ベルギー)が2位の英SABミラーの買収で合意したのだ。英ユーロモニターの調べによると、世界のビール販売額のシェアはインベブが20.8%、SABは9.7%。インベブはSABの買収で世界のビール市場のおよそ3分の1を握ることになる。
日本勢の世界シェアはキリンホールディングス(HD)が2.3%で9位、アサヒグループHDが1.2%で10位、サントリーHDは0.9%で17位にすぎない。
メガビールの誕生で、世界規模での再編は一段落したといえる。ただ、モンスター企業が生まれるということは、見方を変えれば日本のビール会社にとっては海外事業を拡大する好機になる。インベブの独占化が一段と進むため、中国や米国、欧州連合(EU)では独占禁止法に抵触することになる。そうすると、違法となることを回避するために事業の売却を迫られ、日本のメーカーが買収して海外事業を拡大する絶好のチャンスが巡ってくる。
SABがイタリアとオランダのビール会社を売却
インベブは、資産売却の一環としてSABの欧州事業の一部を売却する方針を打ち出した。具体的には、老舗ブランドであるイタリアの「ペローニ」とオランダの「グロルシュ」を売却する。
アサヒグループHDはSABが実施する入札に参加し、買収を提案する見込みだ。買収額は4000億円規模になるとみられている。
今回、売りに出される欧州ビール2社は長い歴史を持ち、普通なら買収できるような案件ではない。それだけに争奪戦は激しい。フィリピンの大手複合企業、サンミゲルが入札に参加すると報じられた。同社傘下のサンミゲルビール(SMB)は東南アジア最古のビール会社で、キリンHDが48%出資している。また、投資ファンドや欧州のビール大手なども応札を検討していると伝えられている。競争が過熱すれば、入札価格が跳ね上がるのは確実。欧州、アジアの強豪相手にアサヒグループHDが勝てるという保証はない。
海外に活路を求める国内ビール各社
日本人の酒類離れが叫ばれて久しい。15年のビール系飲料(ビール、発泡酒、第3のビール)の課税済み出荷量は4億2492万ケース(1ケースは大瓶20本換算)で、11年連続して前年を割り込み過去最低となった。ビールは0.1%増とプラスに転じ、発泡酒も0.3%増だったが、第3のビールが1.7%減で全体の足を引っ張った。ワインやチューハイといったほかの酒類への流出も含め、ビール系飲料離れに歯止めがかからない。