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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

アパホテル、ホテル不足便乗で料金3倍値上げに批判殺到…徹底した利益追求の代償

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授
アパホテル、ホテル不足便乗で料金3倍値上げに批判殺到…徹底した利益追求の代償の画像1アパホテル(撮影=編集部)

 円安の影響を受け、近年、訪日外国人の数は飛躍的に増加しています。2011年には約620万人だったものが、15年には約1970万人と3倍以上の伸びとなっています。「爆買い」に代表されるように、こうした動向が日本経済にプラスの影響を与えていることは間違いありません。

 しかし、良いことがあれば悪いこともあるというのが世の常です。たとえば、ホテル不足は訪日外国人増加に伴うもっとも深刻な問題のひとつといえるでしょう。筆者も東京出張のためにホテルを予約する際、以前と比較してホテル相場がずいぶん高くなったと感じますし、そもそも空いているホテルを探すことすら困難な場合がよくあります。結果、都内のホテルをあきらめざるを得ない事態に陥ります。

アパホテルの価格戦略

アパホテル、ホテル不足便乗で料金3倍値上げに批判殺到…徹底した利益追求の代償の画像2『すごい差別化戦略』(大崎孝徳/日本実業出版社)

 こうしたホテルの値上げに関連して、インターネットや雑誌などのメディアで大きく取り上げられているのがアパホテルです。その内容は概ね「普段は1万円もしない部屋が週末や大雪などの天候により、3万円程度にまで引き上げられる。部屋もサービスも同じなのに、3倍という価格差は大きすぎる。3万円は、一流のシティホテルにも泊まれる価格だ」といった内容です。

 みなさんはアパホテルのこうした価格戦略に対して、どのように思われますか?

 こうした価格戦略は、一般にはレベニュー・マネジメントもしくはイールド・マネジメントと呼ばれています。直訳すると収益管理となりますが、より具体的には収益の最大化を目指して当初の需要予測と現在の実績とを比較し、商品およびサービスの供給量や価格を柔軟に変更する管理手法と捉えることができます。ホテルの客室、およびレストランや航空機の座席の数は固定化されているため、こうした業界において価格を重視したアグレッシブなレベニュー・マネジメントが展開されることは必然の結果といえるでしょう。

 レベニュー・マネジメントといわれると、何か新しい手法のようにも感じてしまいますが、クリスマスやお正月料金など、日本においても古くから一般的な料金体系として存在していました。ところが、ITの進展を受け、さまざまな情報を迅速に収集・処理・発信できるようになったこと、また多くの業界において競争が激化しているといった背景のもと、きめ細かく、かつ大胆なレベニュー・マネジメントが一般化してきているように思えます。ホテルの場合、同じ平日でも月曜日は安く、さらに、その価格差は最も高い休前日の半額といったケースもよく見かけます。

 アパホテルの場合、通常、上限は正規料金の1.8倍と決められており、価格の上げ下げの裁量は各ホテルの支配人に与えられているようです。こうした条件のもと、稼働率×平均客室単価を最大化させることが支配人の腕の見せ所となるわけです。

 一方、同じく大手のビジネスホテル・チェーンである東横インなどでは、あまり大きな価格差は見受けられず、レベニュー・マネジメントの積極的な導入に関しては各ホテルでまちまちの状況であるといえるでしょう。

レベニュー・マネジメントのメリット、デメリット

 こうしたレベニュー・マネジメントのメリットとして、利益の最大化が挙げられるでしょう。周囲のホテルがすべて満室という状況において、空室を確保できているホテルの客に対する立場は圧倒的に強く、通常の2倍の粗利を稼ぐこともたやすい状況となるでしょう。逆に、通常料金ではホテルの部屋を埋められないとわかっている場合は、たとえ半額に設定しても空室のままよりはもちろん利益に貢献するわけです。

 一方、当然ながらデメリットも存在します。まず、周囲のホテルの需給状況などを常に監視し、小まめに価格を修正するのは大変な手間がかかります。これは間違いなくコストです。また、周囲のホテルが満室という状況のなか高価格での販売を狙う場合、事前に予約を受ける余地はあっても断り、ぎりぎりまで空室のままキープしなければなりません。最悪の場合、最後まで予約が入らず空室のまま終わってしまうケースも少なくはないでしょう。

 さらに深刻なことは、ホテルの評判、ブランドへの悪影響です。アパホテルは、駅近・リーズナブルな価格といったイメージをこれまで多くの客に与えてきましたが、積極的なレベニュー・マネジメントによる価格のアップダウンの激しさは、こうしたイメージを損なうことでしょう。今まで事前にほかのホテルとの価格比較などしなかった常連客が、日常的にそのような行動をとるようになれば、これはアパホテルにとって大打撃となるでしょう。

 今回のアパホテルのレベニュー・マネジメントはもちろん違法行為ではなく、利益最大化に向けた正しい行動ということもできるでしょう。筆者は以前からホテル予約サイトで、カプセルホテルやシティホテルを除けば、どのホテルも満室の中、アパホテルだけ空室があるという場面に幾度も遭遇していました。もちろん、価格はもはやビジネスホテルとはいえないレベルでした。けれども、なんら嫌悪感を抱くことなく、むしろ「アパホテル、すごいな」と感心していたほどです。しかし前述の通り、実際にこうしたアパホテルの価格戦略に対して批判的な人は少なくないようです。

 通常、企業にとって最も重要な事項となる「事業の継続」を実現するためには、顧客満足の最大化が大事になってくることはいうまでもありません。こうした立場に立てば、徹底的に利益重視を貫くレベニュー・マネジメントの実践には工夫の余地があるのかもしれません。例えば、部屋自体を修正することは極めて難しいでしょうが、何かしらのサービスを追加すれば(たとえ、それが値上げ分の10%程度であっても)、とりあえず「特別に扱ってくれた」「誠意は感じた」などと、不満がやや軽減する場合もあるのではないでしょうか。この「やや軽減」というところが、不満が大きく拡散するか否かの重要なポイントだと思います。

 今回の事例を見ると、欧米を中心に広く行われてきたレベニュー・マネジメントは、比較的ドライであると考えられる欧米人に対してはうまくいっても、細かいことが気になる、また心情が意思決定に大きな影響を与える日本人に対しては、何かしらのカスタマイゼーションが重要になってくるのかもしれません。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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