2015年11月、大阪府大阪市の警備会社が41歳の男性警備員に違法な残業をさせたとして、同社および総務次長が労働基準法違反の疑いで書類送検される事件が起きた。男性警備員は施設やイベントの警備に従事していたが、1カ月の間に労使協定の限度時間を大幅に超える約334時間も働かされていたという。
なぜ、この警備会社は、従業員にこれほどまでの過酷な労働を強いたのだろうか。自らも警備員として働くなど、警備業界の事情に詳しいフリーライターの橋本玉泉氏に、過酷な労働実態や業界の体質について話を聞いた。
法外な労働時間の原因は慢性的な人員不足?
–労働基準監督署によると、問題の警備会社では登録された警備員のうち、4分の1に当たる30人が過重労働に苦しんでいたようです。こうした労働環境は、警備業界ではよくあるものなのでしょうか。
橋本玉泉氏(以下、橋本) 警備会社によってさまざまなケースがあるとは思いますが、非常に多いのではないかと思われます。例えば、勤務が終わった直後に会社から電話があって「あともう1勤務できないか?」と言われるようなケースは珍しくありません。突発的な残業というよりも、人手が足りない、必要な人員が確保できないという状況は、複数の現場でよく聞かれます。
–そういった事例が積み重なり、結果として残業時間が大きく膨れ上がってしまうということですね。そもそも、なぜそんな状態に陥ってしまうのでしょうか。
橋本 いくつかの要因のひとつとして、警備業界の「慢性的な人員不足」が挙げられます。警備業では、業績を上げるには作業数を増やすしかありません。また、警備員の配置が要求される現場も以前に比べて増えています。そうした状況から、各警備会社は仕事を受けられる限り受けるという状況になりがちです。それで、多少無理をしてでも限られた人員で仕事を回すしかなくなります。
また、施設警備などでは12時間以上の長時間勤務も珍しくないのです。さらに、多くの警備会社では、内勤は正社員として雇用するケースがあっても、現場勤務の警備員は、1勤務ごとの報酬で働く非正規の雇用形態が主流で、昇給や賞与、有給などがないケースが多いです。
そのため、生活費を稼ぐために超過労働をしてしまう警備員も少なくありません。そうしたことから、1人当たりの負担が大きく、離職率も高いという悪循環を起こしやすい状態になっているのではないかと考えられます。