昨年、楽天市場の買い物でポイント還元率を年間10%以上にキープする方法を本連載に書いた。楽天の「水曜日得得デー」「スマホアプリ経由ならポイント2倍」などのキャンペーンをきちんと管理していくことで、普通なら2~3%にしかならないポイント還元率が、年間で安定して10%台をキープできるという細かいノウハウをまとめた話だった。
実はその頃から、ポイント戦線に異状が起きている。仕掛けているのはヤフージャパンだ。
昨秋から宮川大輔の宣伝で始まっている「全員まいにち! ポイント5倍」キャンペーンがそれである。このキャンペーン、とにかくヤフーショッピングへのポイント付与率がハンパないのである。
ヤフーショッピングで買い物をする際に基本となるストアポイント1%に加えて、全員まいにち!でプラス4%と、全員が基本的に5%還元になる。それに加えて、ヤフオク!を利用している人は通常ヤフーのプレミアム会員になっているはずだが、その場合はさらに+4%が加算される。そして支払にYahoo! JAPANカードを利用するとポイントが+3%加算。きわめつけは5のつく日にキャンペーンエントリーして購入すればさらにポイント+4%ということで、なんの努力をしなくても16%のポイント還元がなされてしまうのだ。
実際に筆者も楽天で行ったのと同じようにユーザーとしてのキャンペーン参加を管理しながら日常の買い物をヤフーショッピングに移してみたところ、驚いたことに初月から買い物のポイント還元率が14.4%と2年かけて引き上げてきた楽天の還元率を超えてしまった。
ちなみにその時点での楽天の還元率は13.4%で、楽天のダイヤモンド会員の地位を最大活用して稼ぐポイントよりも、始めたばかりのヤフーショッピングで還元されるポイント数のほうが多いのだ。
これをきっかけにヤフーと楽天の間ではポイント戦争が勃発し、楽天は対抗のためにスーパーポイントアッププログラムを開始した。これはエントリー不要で楽天ポイントがザクザクたまるというキャンペーンで、カードとアプリ利用で5倍、プレミアムカードなら6倍、楽天モバイル利用で7倍というようにポイント還元率が従来よりも高くなっている。
このポイント戦争のおかげで、筆者の買い物は楽天市場でもヤフーショッピングでもどちらも1、2月の買い物はポイント還元率が15%を上回るという好成績になっているのだが、なぜこんなことが起きているのだろう? 筆者なりに状況を分析してみたいと思う。
ユーザーをスイッチさせる
このようなポイント戦争が起きる背景として2つ、興味深い経済ニュースを紹介しよう。ひとつは楽天の事業の柱が2本に増えたという報道だ。
これは昨年秋のニュースだが、楽天の7~9月期決算でネット通販事業の営業利益が250億円だったのに対して、楽天の金融事業の営業利益が151億円にまで増えてきたというのだ。この増加の原動力となったのは、楽天カードからの利益である。
そもそも楽天グループのビジネスモデルの根幹にあるのはポイント経済圏。楽天のサービスを利用するとポイントがたまる。そのポイントを利用するために別のサービスを利用してさらにポイントがたまるということが、経済の循環を生んでいる。
そして楽天カードで決済すればさらにポイントが貯まるので、楽天カードが使われる。カードで決済すると小売店は3~5%程度の手数料を支払わなくてはならないのだが、楽天カードの場合は楽天がその手数料を受け取る立場になるわけだ。
このポイント経済圏のビジネスモデルは専門用語で「ネットワーク外部性が働く」といって、参加する消費者が多いほど競争相手にとって打ち負かしにくくなるという強みがある。通常では楽天ほどの企業を打ち負かすのは不可能なのだが、ヤフーはそこに挑戦をしたわけだ。
そもそも数年前にヤフーは、ヤフーショッピングで加盟店にかかる手数料を楽天と比べて大幅に下げるという施策を打って、加盟店の数を大幅に増やした。そのことで加盟店数では比肩し得るようになったのだが、ユーザー数や販売数では楽天はまだ強い。
そこで楽天がついていけないぐらいポイント還元率を高めれば、ユーザーをスイッチさせることができる。それがヤフーのひとつめの着眼点だろう。
実は加盟店手数料が低いヤフーショッピングと高い楽天市場に同じお店が出店して同じ商品を売っている場合、ヤフーショッピングで売っている商品の方が価格が安いというケースがたくさんある。ポイント還元率を高めてヤフーショッピングを多くの消費者に使わせてみれば、ヤフーショッピングの良さが伝わる。そこでヤフーは期間限定で大幅なポイント還元を仕掛けたのである。
Tポイント経済圏での影響力強化
そこにもうひとつ別のニュースが加わる。コンビニエンスストアのファミリーマートとサークルKサンクスの合併だ。ヤフーはファミマのTポイント陣営、楽天はサークルKサンクスの陣営だが、この両者の力関係ではファミマのほうがサークルKよりも力が強い。ということは、合併によってこれまでサークルKサンクスで使われていた楽天ポイントが今後Tポイントにスイッチされる可能性が出てきたということである。
そこでヤフーは、ヤフーショッピングで還元されるTポイントでも主導権を取りにきた。クレジットカードのYahoo! JAPANカードについて、Tポイント付きのクレジットカードへの切り替えキャンペーンに力を入れている。今、Tポイント付きのYahoo! JAPANカードに新規入会すると、合計で7000ポイントがもらえるキャンペーンを展開しているのだが、このキャンペーン、すでにYahoo! JAPANカードを持っているユーザーでもTポイント付きのカードへ切り替えることで3000ポイントもらえる。大盤振る舞いなのだ。
この一連の狙いは、Tポイント経済圏での影響力強化だろう。ファミマの店頭で「Tポイントをお持ちですか?」と店員さんに訊ねられたときに、ファミマカードではなくYahoo! JAPANカードを出す消費者の数を増やそうとしているわけだ。
消費者にとってもいいことだらけのヤフーのポイント大放出だが、残念な話がひとつ。2月末でこれらのキャンペーンはいったん終了するらしい。ヤフーにとっても資金が長くは続かない、そんな大盤振る舞いだったのかもしれない。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)