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堕ちた超名門企業IHI、信用ゼロに…公募増資直後に業績巨額下方修正、常に粉飾決算疑惑

文=編集部
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堕ちた超名門企業IHI、信用ゼロに…公募増資直後に業績巨額下方修正、常に粉飾決算疑惑の画像1IHI本社ビル(「Wikipedia」より/椰子之樹)

 IHI(旧石川島播磨重工業)の経営陣は、以前から「信用できない」といわれてきた。そのIHIの損失が止まらない。4月1日付で会長を辞めて取締役となり、6月下旬の株主総会を経て相談役になる釜和明氏の責任が大きい。釜氏は過去の決算で損失隠しを行っていたとして、決算を訂正した。東京証券取引所にIHI株は監理ポストに移され、金融庁から課徴金の納付を命じられたが、釜氏がそのような負の連鎖の責任を取らず経営トップの座に居座り続けてきたため、IHIではガバナンスが機能していない。

 釜氏に後継社長として指名され、2012年4月から社長を務める斎藤保氏は、今年4月から代表権のある会長兼最高経営責任者(CEO)になる。斎藤氏は「ものづくりを再構築するためのテンポラリー(一時的)な体制だ」と述べ、事実上の院政を宣言した。取締役常務執行役員の満岡次郎氏が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格するが、斎藤氏が立てた戦略を満岡氏が執行する格好となり、完全な二頭体制である。

 斎藤氏も自分を指名してくれた釜氏を見習って、経営責任を取らず会長兼CEOに成り上がったわけだ。これではIHIの再生はおぼつかない。

 IHIは度重なる損失の発生で、とうとう16年3月期には7年ぶりの赤字に転落する。株価はアベノミクス相場の黎明期以来の200円割れの水準まで売られ、2月12日には154円の昨年来安値に沈んだ。そのため、期末配当は無配になる。16年3月期の最終損益は300億円の赤字で、期初予想の490億円の黒字からすると790億円もの差が出る。過去には損失隠しもあり、IHIの決算見通しはまったく信用ならない。

 年明け以降2月12日までの株価の下落率を計算してみたところ、全上場企業のうち下落率の大きい8社はジャスダックや東証マザーズの新興市場に上場している銘柄、IHIは54%安でそれらに続くワースト9位。ワースト10の中で東証1部上場銘柄はIHIだけである。

 今回の株価の惨落は、信じられないようなミスが原因である。インドネシアのボイラー工場で生産した配管の溶接材料を間違え、国内外4つのプラントで補修工事が必要になった。斎藤氏は2月5日の記者会見で「ものづくりの力の根幹がおろそかになっており恥ずかしい。品質を立て直すことが使命だ」と述べ、自らの辞任を否定した。だが、責任を頬被りすることに失敗。2月22日に「社長の椅子を降り、4月1日付で代表権のある会長兼CEOになる」トップ人事を発表せざるを得なくなった。

 ボイラー工場のミスに加え、15年3月にトルコの横断橋建設現場で足場が落下する事故を起こし、16年2月としていた納期に間に合わなくなり、15年4~12月期に473億円の特別損失を計上した。

 13~14年にノルウェーとシンガポールの企業から請け負った海洋構造物の工事で、作業の進行と共に損失が膨らんでおり、ボイラー事故で決定的なミスが発覚した。

 これらの一連の案件の損失は、まだ終わりが見えていない。悪材料が出尽くしたとはいえない状態が続いているためだ。経営トップが責任を取らないという悪癖が続く限り、IHIの浮上はないだろう。

粉飾決算まがいの損失隠しが発覚

 釜社長時代の不祥事の顚末はこうだ。08年1月になって、07年3月期連結決算の数字を訂正した。302億円の損失を新たに計上し、営業損益は当初に発表した246億円の黒字から56億円の赤字に転落した。経常赤字は87億円、最終的に45億9300万円の赤字となった。

 IHIの社内調査委員会は「利益を優先した過大な受注が原因」とする報告書をまとめた。弁護士らで構成する社外調査委員会も「リスクに応じた受注が選別されていれば、業績の悪化は回避可能だった」と指摘した。

 08年3月期も168億円の営業赤字を計上した。東京都江東区豊洲のIHI本社に隣接する旧造船所の跡地(含み益は3000億円といわれている)の一部を776億円で第一生命保険に売却することを決め、この売却益で営業赤字(経常赤字は308億円)を穴埋めし、251億円の最終利益を捻出した。

 社外調査委員会が「意図的な損失隠しや先送りをうかがわせるものはなかった」との認識を示したため、これをよりどころに釜氏は「再発防止が私の使命」と主張して社長を続投した。

 しかし、赤字に転落した07年3月期決算の直前の07年1月と2月にIHIは公募増資と第三者割当増資を実施し、総額639億円を調達。当時は巨額損失が明らかになっておらず、あろうことか釜氏は元財務担当役員だった。釜氏は当時、「損失がこれほど大きくなるとは想定外だった」と釈明したが、投資家のIHIに対する不信感は、いまだに消えていない。「上場廃止に相当するような損失隠しで悪質だ」と厳しく指弾するアナリストがいたほどだ。

IHIの“粉飾決算”問題

 ここであらためて、IHIの赤字隠しの流れを整理してみよう。

 07年初めに公募増資プラス第三者割当増資で639億円を調達する大規模増資を実施し、同年6月には300億円の社債を発行した。

 IHIは07年11月5日に予定していた同年9月中間決算が12月14日に延びた。巨額損失を招いた原因の分析に時間がかかったと言い訳した。この発表では、9月下旬にサウジアラビアで受注したセメントプラントの欠陥(工事)などにより、08年3月期決算の営業損益段階で170億円の赤字に転落することが明らかになった。

 IHIは当初、08年3月期の営業損益は400億円の黒字と見通していたため、170億円の赤字に転落するということは、600億円近い利益の下振れが起こったことになる。大企業でこのような事態は、突発事故でもない限りあり得ない。

 IHIはプラント工事などのミスが重なって業績の大幅な下方修正に追い込まれたと説明したが、過去にもプラント工事で同様の失敗をしているにもかかわらず、その教訓がまったく生かされていない。釜氏は、増資後の下方修正は偶然が重なった結果だと釈明したが、偶然ではなく確信的な損失隠しと受け止める向きも多かった。

 同時に、最大280億円の営業損失が発生する恐れがあると明らかにした。しかも、07年3月期決算にまでさかのぼり、決算を修正する可能性を明らかにした。IHIの社内調査委員会と奥山章雄・元日本公認会計士協会会長らで構成される社外調査委員会が「粉飾決算」の有無を調べる事態に発展した。

 エネルギー・プラント事業部が巨額の赤字を隠したことに対し、調査委員会は「本社の財務担当は知らなかった」と結論づけている。IHIは、工事原価やリスクを管理する本社組織を新設すると発表したが、過去のプラント工事での失敗の折りにも同じようなことを言っていたことから、また同じことを繰り返すのではないかと不安視する向きも多い。

 東証は07年12月、IHIの07年3月期と06年9月期の決算の数字の訂正を受け、IHI株が上場廃止基準に抵触するかどうかを審査するため監理ポストに移した。しかし、内部管理体制に不備があることを会社側も認めていたため、特設注意市場にIHI株を移して投資家にはっきりと注意を喚起すべきだった。

 記者会見で釜氏は「過去の決算の数字を虚偽記載したという認識はない」と言っているが、それならなぜ東証はIHIを「監理ポスト」に割り当てたのか。「名門企業」といわれるIHIが投資家の信頼を揺るがす決算の訂正を行ったわけで、まず責任を取らなければならないのは釜氏だ。記者会見後、プレスに取り囲まれた釜氏は「監理ポスト入りは想定外だった」と本音をつぶやいた。想像を絶する認識の甘さだ。

 ちなみに、IHIの会計監査を行ったのは新日本監査法人だ。新日本監査法人といえば、東芝の粉飾決算を見逃して監査を辞めさせられたことが知られている。

 IHIの粉飾決算は釜氏が財務担当の役員をしていた時に起きている。釜氏が赤字隠しに関与していたとの噂が、社内外で繰り返し流れていた。

 IHIの訂正有価証券報告書が提出された後、証券取引等監視委員会は本格的な調査を行った。

 IHIは経営陣14人を処分したと言っているが、当時会長の伊藤源嗣氏は07年12月31日付で取締役を辞任したものの相談役として残っている。釜氏は社長報酬の返上だけでお茶を濁した。辞任したのは長崎正裕取締役・執行役員だけだ。あとは「顧問の委嘱を解く」が1人。形式的な処分だったといっても過言ではない。

 07年12月13日付朝日新聞では『IHI社長、辞任せず』との記事を掲載している。本来は釜氏が辞めなければならなかった。釜氏は6カ月間無報酬となったが、処分は甘すぎるといわざるを得ない。釜氏は自らの責任について、「このようなことを二度と起こさせないことが私に課せられた使命」だと語った。

巨額損失を隠して公募増資

 東証は08年2月、「内部管理体制に問題あり」として「特設注意市場銘柄」に指定した。

 総額850億円の損失が発覚したIHIは08年4月10日、08年3月期連結決算の業績予想を下方修正した。営業損失が150億円から180億円赤字に、経常損失は250億円から310億円赤字にそれぞれ拡大した。

 08年4月18日、都内のホテルで臨時の株主総会を開き、黒字と発表していた決算が一転、大赤字になった経緯を報告した。初めて釜氏がこの件を株主に直接説明し、株主からは経営責任を厳しく問う声が出た。質問に立った28人のうち6人が、「株価が急落した。どうしてくれる」と釜氏に社長辞任を求めた。IHIの株価は07年2月に514円の高値をつけ、8月まではおおむね400円台だった。それが9月末の損失公表で200円台に急落した。釜氏の弁明は「小学生の反省文」と酷評された。

 株主総会の焦点のひとつは、経営陣がいつ巨額赤字の発生を認識したか、であった。エネルギー事業本部は07年4月に業績悪化を認識していた。業績悪化を分析する会議では代表取締役副社長も出席していた。この時はオブザーバーとしての出席で、首脳陣への正式な報告は6月に入ってからだったと説明している。この点に関しても、「会社として、経営陣として業績の下振れ懸念を知ったのは7月だった」と従来の主張を繰り返した。

 証券取引等監視員会は08年6月19日、金融商品取引法違反でIHIの不適切経理(利益の水増し)に対して、15億9457万9999円の課徴金の納付命令を出すよう金融庁に勧告した。同法違反による課徴金としては、当時における過去最高額である。自主的に数字を訂正しており、悪質性はないとしているが、公募増資の場合は発行済みの100分の2、社債の場合は同100分の1の課徴金が課せられ、結果責任を厳しく問うたかたちだ。ちなみに、この額は東芝によって塗り替えられた。東芝は73億7350万円の課徴金が科せられた。

 IHIは関東財務局に提出した決算の半期報告書と有価証券報告書で損失を過少に計上した。06年9月中間連結決算で28億1700万円の赤字としたが、実態は100億9500万円の赤字だった。07年3月連結決算(本決算)は158億2500万円の黒字としたが、実際は45億9300万円の赤字だった。IHIはこの虚偽決算を基に、07年1~2月に公募増資などを実施して639億円を調達し、6月には300億円の社債を発行した。このファイナンスの際に提出した有価証券届出書も虚偽の内容だった。決算に業績悪化を正しく反映していれば株価が下がり資金調達にも影響が出て、時価発行増資も社債の発行もできなかったといわれている。

 400億円の黒字見通しであると説明して時価発行増資を行い、一転して170億円近い赤字に陥った。しかも増資時点の財務状況も発表と実態が大きく異なっていた事実は、株主に対する裏切りと言わざるを得ない。
(文=編集部)

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