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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

マイナス金利でデフレ深刻化の恐れ…フィッシャー方程式から読み取れる物価の行方

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日本銀行(撮影=編集部)
 日銀マイナス金利政策(NIRP)を今年2月16日から開始したが、同政策が物価上昇率に及ぼす影響は「フィッシャー方程式」から読み取れる可能性がある。


 フィッシャー方程式とは、「実質金利は、名目金利から期待物価上昇率を差し引いたものに等しい」というもので、投資や金融取引の根幹をなす重要な「恒等式」である。すなわち、数式で表現すると、「実質金利=名目金利-期待物価上昇率」となる。これは変形すると、「名目金利=実質金利+期待物価上昇率」とも表現できる。

 その際、フィッシャー方程式の見方や解釈でしばしば論争となるのは、「実質金利と名目金利のどちらが先に決定するのか」という問題である。

 まず、名目金利が先に決定するケースを考えよう。たとえば、名目金利が1%で、期待物価上昇率が▲0.5%のとき、フィッシャー方程式から、実質金利は1.5%(=1%-▲0.5%)となる。この場合、中央銀行が量的・質的金融緩和とマイナス金利政策で、たとえば名目金利を▲0.5%に誘導しつつ、期待物価上昇率を2%に高めることができれば、実質金利は▲2.5%(=▲0.5%-2%)となり、マクロ経済を刺激できる可能性がある。

 他方、実質金利が先に決定するケースを考えよう。たとえば、実質金利が1%で期待物価上昇率が▲0.5%のとき、フィッシャー方程式から、名目金利は0.5%(=1%+▲0.5%)となる。この場合、中央銀行が量的・質的金融緩和とマイナス金利政策で、期待物価上昇率を2%に高めることができても、実質金利は1%で先に決まっているので、マクロ経済には何も刺激を与えられず、名目金利が3%(=1%+2%)に上昇するだけである。

 以上から、「実質金利と名目金利のどちらが先に決定するのか」という問題は、短期・長期での調整メカニズムを含め、金融政策の効果予測に大きな影響を及ぼす。

デフレを深刻化


 なお、通常の経済学の教科書などではあまり議論されないが、フィッシャー方程式は、「期待物価上昇率=名目金利-実質金利」とも表現でき、名目金利がゼロやマイナスに陥った場合は、この式の見方や解釈も重要となる。

 たとえば、実質金利が1%で、名目金利がゼロのケースを考えよう。この場合、上式は「期待物価上昇率=-1%」となる。これは、「名目金利がゼロの経済では、実物資産の収益を表す実質金利と貨幣保有の収益が一致する」ことを意味する。