アマゾン、利益出さずに巨額現金生むモデル…楽天、在庫リスクゼロで会員顧客を循環させ利益
現金を生み出すアマゾンの仕組み
アマゾンのビジネスモデルは、楽天やスタートトゥデイに比べると破天荒なところがある。前人の成し得なかったことを初めてするだけあって、「なんでも有り」といった感が漂う。
システム投資、物流センターへの投資、データセンターへの投資と続き、利益が出る年度は数えるほどしかなく、15年度には営業利益が出たものの、わずか2.1%だ。それも、自社のために構築したシステムをクラウドサービスとして提供する事業が急成長しているおかげだといわれる。
利益を出してはいないが、潤沢なキャッシュフローと投資家に夢を売るのが上手な天才的CEOのおかげで株価は高どまりしている。これを、eコマースの理想のビジネスモデルといえるのだろうか。
もっとも、アマゾンが潤沢なキャッシュフローを生み出すことができたのには、それなりの仕組みがあったからだ。
アマゾンが最初に書籍を取り扱うことにしたのは、消費者が品質の違いを懸念する必要がない(どこで買っても同じという安心感)、アイテム数が300万点に上り大きな書籍チェーン店でもすべてを取り扱うことはできないといった大まかな理由があったからだ。だが、さらにもうひとつアマゾンを利する重要な理由が存在した。
当時の米国には、書店は書籍が入荷した90日後に代金を出版社(あるいは取次代理店)に支払うという慣習があった。その一方で、ネット販売では客がクレジットカードで支払ってくれれば、入金は2日以内になされる。
その後、出版社への支払いは58日に短縮せざるを得なくなったが、それでも在庫回転率を高めることで(当時の回転率は40~50)、書籍を在庫として持つ日数を平均17日に短縮することができた。結果、平均して支払いの41日前に入金される体制がつくられた。
つまり、アマゾンは顧客が支払ったお金を平均41日間、キャッシュフローとして手元に置くことができたわけだ。これは、フリーキャッシュフローを生み出すための優れた仕組み(ビジネスモデル)といえる。
最近のアマゾンの在庫回転率は9.5前後で、8弱のウォルマートより少し高い程度だ。書籍以外の多種多様な商品を販売しているため下がってきているのだ。しかし、取り扱い商品の多くは受託販売やドロップシッピングなので、顧客からの入金とサプライヤーへの支払いの間には、書籍ほどではないが、ある程度の日数がある。また、キャッシュフローに悪影響を与える在庫が膨らむ率も低い。
このように、eコマースで大きく成功しているといわれる企業は、在庫に悩まされないビジネスモデルを採用している。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授)