消費者はわがままで、あまのじゃくである。「同じような不祥事を起こしても、批判される企業もあれば、それほど批判されない企業もある。それは不公平じゃないか」という声も聞くが、消費者はそんなものだ。消費行動は理屈ではない。好き嫌いだ。誰がなんと言おうと「好きなものは好き、嫌いなものは嫌い」なのだ。
「期待していた人ほど裏切られ感が強い。好きだった企業に裏切られるのが一番嫌だ。好きでもない企業、特別関心もない企業が何をやろうとどうでもよい」というのが消費者の心理だ。だから、同じようなものを販売・提供しても、売れる企業もあれば売れない企業もある。
世の中気に入らないことばかりだが、その不平不満を言うところがない。せめて「自分のお金を払って物を買う時ぐらい、好き勝手にしたい。好きなようにしたい」というのが、多くの消費者だ。「身銭を払う時ぐらい多少わがままなことを言ってもいいじゃない」と自己分析している消費者は少ないが、売る側の企業からするとそう見えてしまう。だから商売は難しい。でも、だからこそ商売は面白いのだ。
筆者は事業者向けの講演で言うことがある。それは、「食は女性に嫌われたら終わりだ」ということだ。今では、食を選ぶ権限は多くの場合女性が握っている。女性は、一度嫌いになったら一生嫌いだ。「女性に嫌われたら、振り向いてくれることは、まずない」と覚悟しなければいけない。
日清CM中止騒動
日清食品の「カップヌードル」のテレビCM放送が、開始から1週間ほどで中止になったことが話題になっている。女性に嫌われないという点では、今回のCMは女性には「好き嫌いが顕著に表れる」内容だ。このCMに好感を持つ女性よりも、嫌い(不愉快)と思う女性のほうが圧倒的に多いかもしれない。
企業でも芸能界でも、大きくなるまでは「俺を好きな奴だけついてこい、嫌いな奴はついてこなくていい」というスタンスでも構わないだろう。しかし、大きくなるとそれは通用しなくなる。芸能界の一部には、有名になっても嫌われ役を演じる人もいるが、多くの芸能人は有名になると丸くなる。それは、いわゆるファンだけを相手にするのではなく、不特定多数の消費者を相手にしなければならなくなるからだ。
日清食品ほどの企業になれば、ファンだけでは企業は成り立たない。浮動票をいかにつかむか、そして「つかんだ浮動票はできるだけ逃がさない」ことが必須である。