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手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

トヨタとソフトバンク、どちらの投資リスクが大きいのか? 資本コストとは

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授
トヨタとソフトバンク、どちらの投資リスクが大きいのか? 資本コストとはの画像1トヨタ自動車本社(「Wikipedia」より/Koh-etsu)

 これまで3回の本連載ではROE(自己資本利益率)を中心に議論をしてきましたが、今回は株主資本コストについて紹介をしたいと思います。前回、ROEと株主資本コストの差であるエクイティ・スプレッドに関して説明をしましたので、株主資本コストを上回るROEを生み出すことによって企業は価値を創造することができるということはご理解いただいているかと思います。

 簡単にいえば、ROEとは株主へのリターンであり、株主資本コストとは株主が投資先に要求するリターンですので、ROE>株主資本コストであれば、企業は株主が要求するリターンを上回るリターンを生み出しており、企業価値を創造していることになります。

トヨタとソフトバンク、どちらの投資リスクが大きいのか? 資本コストとはの画像2『ROEが奪う競争力 ―「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(手島直樹/日本経済新聞出版社)

 しかし、問題となるのは、株主資本コストがいくらなのかということです。ROEは当期純利益を自己資本で割ることにより容易に算出できますが、株主資本コストはそうはいきません。決算資料を探しても見つからないのです。資本コストを意識する企業が日本にも増えてきているため、一部の企業が株主資本コストを開示してはいますが、これは自主的な対応であり、貸借対照表や損益計算書のように開示が義務付けられていないのです。

 それはなぜかというと、正確に株主資本コストを計算することが不可能だからです。後述するCAPM(資本資産価格モデル)のような広く利用される計算方法はあるものの、CAPMのパラメーターに利用される数値の選択は自由度が高く、人によって株主資本コストの計算結果が異なってしまいかねないのです。ですので、企業も積極的には開示しにくいですし、会計士も監査のしようもありません。

株式投資のリスクを定量化するのは困難

 株主資本コストの算出が難しい大きな理由は、投資家がある企業に投資する際にリスクに合わせて、どの程度のリターンを要求するのかという主観的なものを定量化しようとするからです。

 たとえば、ソフトバンクトヨタ自動車のどちらかに投資をしようと考えているとします。なんとなくソフトバンクのほうがトヨタ自動車よりもリスクが高いような気がするわけですが(だからこそ高いリターンも期待できる)、「なんとなくそう感じる」という程度のことしか言いようがありません。ソフトバンクのリターンはトヨタのリターンよりも10%高くなければいけないという人もいれば、5%高ければ十分という人もいるでしょう。

手島直樹

手島直樹

慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)、『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(2016年、日本経済新聞出版社)。

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