「楽天が国内初となるドローンを利用したサービスを5月9日より実施」というニュースが大きく取り上げられ、筆者も興味津々で記事を読みました。
楽天によるドローンを利用したサービスと聞くと、誰もがインターネット上の楽天のショッピングモールで注文した商品がドローンによって自宅に送られてくると想像するでしょう。しかし実際は、ゴルフ場でプレイヤーがスマートフォンを通して注文した飲料やボールが、コース上までドローンによって運ばれてくるという内容でした。
こうしたドローンによるサービス内容は、個人的にはいささか期待外れという印象でしたが、「楽天がアマゾンに先駆けて国内初となるドローン・サービスを実用化」という事実を世に知らしめた広報施策の視点で捉えると、そのしたたかさに大いに感心してしまいます。
ドローンのニュース・バリューの活用
今や、ドローンに対する注目度は抜群です。それに“国内初”が加わればニュース・バリューがいかに大きくなるかは容易に想像がつきます。しかし、法整備の問題を別にしても、個別の家庭にドローンで配達するとなると、実際には技術的問題に加え安全面など数多くの難題が待ち受けており、実用化にはまだまだ時間がかかることでしょう。
しかし、今回のようなゴルフ場でのサービスなら、私有地の範囲でビルなどの障害物はなく、人も少なく技術や安全面において、街中とは比較にならないほどハードルが下がるはずです。よくぞ、ここまでハードルの低い立地およびサービス内容を見つけ出したものです。
本来、こうしたサービス内容であれば、実験段階として扱うのが常であると思われますが、これを国内初のサービスとして大々的にアピールする楽天に恐れ入る次第です。
日本企業の多くがアピール下手といわれますが、その要因のひとつは注目されるメリットとデメリットを天秤にかけ、万が一のリスクを過大に意識してしまう保守的な傾向が強いからだと考えられます。例えば、今回のサービスでもゴルフ場でドローンが強風にあおられて落下し、たまたまプレイヤーにあたってしまうことが生じる可能性は0ではないわけです。その場合、実験段階ということなら大きな問題にはならないでしょう。しかし、「ドローン・サービス実験開始」のニュース・バリューは大きくはなく、今回のように大々的に新聞などで取り上げられることはなかったでしょう。このようにリスクよりも広報的価値を重視した大胆な決断は、創業者が強力に引っ張る企業ならではという気がします。
こうした広報的価値に加え、実際にお客様からお金をもらってサービスを実施するとなると、単なる実験とは異なり多くの課題を含む情報収集が可能となり、今後のサービス改善にも有益に活用できることでしょう。当然のことながら、他社よりも早くサービスを始めるほど、蓄積される情報量の差はより大きくなるわけです。
リスクを引き受け、他社に先駆けてサービスを開始し、大々的に広報していくという姿勢は多くの日本企業にとって参考になることでしょう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)