富士フイルムホールディングスは武田薬品工業の子会社、和光純薬工業の買収を提案する。武田が8月に実施する入札に参加した。
和光は非上場企業だが、創薬研究用試薬では国内首位。2016年3月期の売上高は757億円、総資産は1416億円。武田薬品が69.43%の株式を持つ筆頭株主で、富士フイルムは9.51%の株式を保有する第2位株主である。
武田は事業の「選択と集中」を進めてきた。重点領域に据えるがんや消化器疾患の新薬開発に経営資源を集中。試薬など非中核事業を切り離す。和光の売却額は最大で1000億円規模になる見込み。武田は和光の売却で得た資金を新薬の開発に充てる。武田は野村ホールディングスを助言役に起用した。
さらに8月に入り、日立製作所も和光の買収に名乗りを上げた。医療関連企業をリーディングカンパニー同士が奪い合うことになる。日立が51.2%の株式を保有する子会社、日立化成が主体となって応札した。日立のヘルスケア事業の年商は3300億円規模。18年度に15年度比で3割増の4400億円を計画している。3月に日立化成が再生医療用細胞の受託生産を始めている。
入札には英ペルミラなど複数の投資ファンドや米医療用品大手なども参加するとみられており、激しい争奪戦が展開されることになりそうだ。富士フイルムにとっては負けられない一戦となる。
キヤノンに敗北
「残念だった」――。
今年3月、東芝メディカルシステムズをめぐる激しい買収合戦で、キヤノンに敗れた富士フイルムHDの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)は口惜しさを滲ませた。それでも、「(東芝メディカルで)使わなかった資金は使い道がある。人間万事塞翁が馬。それはそれで良し」と、古森氏は未練を断ち切った。
富士フイルムが東芝メディカルの買収に名乗りあげたのは、成長戦略の核に据えた医療事業の規模を拡大するのが狙いだった。キヤノンにさらわれた痛手は小さくないが、買収に使わなかった6000億円の手元資金(16年3月期)が残った。この資金で、次のM&A(合併・買収)のターゲットにしたのが和光だ。
2000年に社長に就いた古森氏が、稼ぎ頭の写真フイルムが縮小していくなかで、新たな成長を目指して投資する分野として医療を選んだ。
08年、富山化学工業を買収した。この時、当時社長だった古森氏は「現在3000億円規模のメディカルサイエンス事業を10年後に予防・診断・治療の領域をカバーする1兆円規模の総合ヘルスケア事業に成長させる。医薬品事業は、その柱だ」と述べていた。富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬のアビガンは、エボラ出血熱に使えることから高い評価を受けた。14年、アビガン効果で富士フイルムHDの株価は上昇した。