韓国の海運最大手、韓進海運が会社更生法にあたる法定管理を申請したことに伴い、荷を積んだ状態の同社コンテナ船が世界各国の港で受け入れを拒否され、公海上での停泊を余儀なくされている。
韓国メディアによると、韓進海運が保有する船舶計141隻のうち79隻が23カ国44港で入国を拒否されている。韓進海運の破産によって、代金が支払われなくなることを懸念した業者が作業を拒否したり、そもそも船舶の差し押さえを恐れて入港を遅らせるといった事態も起きているようだ。
それによって、韓進海運に依頼して輸出した韓国企業に深刻な影響が出る可能性がある。たとえば、サムスン電子は輸出の40%超、LG電子は20%超を韓進海運によって物流をまかなっている。積荷の納品が遅れれば、ただでさえ低迷し始めている経営に大きなダメージとなることは避けられない。
韓国政府は代替輸送手段を用意していると報じられているが、韓進海運だけでなく韓国の海運業は総じて経営状況が芳しくない。韓進海運に次ぐ国内2位の現代商船も経営破綻の危機に瀕している。今年上半期だけで約4000ウォン(約373億円)の営業赤字を計上し、このままでは来年早々にも手元の現金が枯渇する恐れがある。
韓国は、世界6位のシェアを誇る海運大国だが、国内トップ2社がこの状態では、韓国海運業が総崩れとなりかねない。
韓国政府は、国家規模でのピンチに対して事前に策は講じておらず、完全に後手に回っている。国内メディアも、「韓進海運の破産の影響を考慮した対策は不十分」と政府を批判している。
上場企業の4分の1に破産リスク
国家レベルの危機ともいえる状況だが、韓国の懸念は海運業だけではない。
米大手コンサルティング会社のアリックスパートナーズは、「低迷が続く韓国企業」と題した報告書によって、韓国全体の経済状況に警鐘を鳴らしている。
同社は、韓国の上場企業1606社について、財務データや株価を基に独自分析し、今後9カ月以内に深刻な業績不振に陥るリスクを算出している。それによると、26%に破綻リスクがあるという。特に、破綻リスクが高い企業は9%に上り、「破綻リスクの高い企業がほかのアジア諸国より際立って高い」と指摘している。
ちなみに、日本で破綻リスクが高い企業は2%だという。<
造船・海運業がもっとも破綻リスクが高く、次いで金融関連、建設・不動産関連、重機関連となっている。これらには、いずれも財閥系などの大企業が多いが、昨今の韓国では、セメントが主力の東洋グループ、造船業などのSTXグループ、出版大手の熊津グループといった財閥企業が相次いで破綻している。
財閥が国内経済の大半を占めるといわれる韓国にあって、大財閥すらも経営が立ち行かなくなっているのだ。韓国経済を支えているといっても過言ではないサムスングループや現代グループも大幅な減益が避けられない状況だ。
特にサムスングループは、主力のサムスン電子がスマートフォン「ギャラクシーノート7」の欠陥によって全品リコールとなったことが大きな影を落としている。これによって、営業利益が8200億ウォン(約767億円)ほど減るとの試算もある。昨年からグループ内の資産を売却しているともいわれており、経営状況は芳しくないとの見方が広がっている。
韓国は、国内需要が伸び悩み中国に依存してきたが、その中国経済が失速しつつある今、即効性のある景気回復策を打ち出せなければ国家全体が沈没しかねない。朴槿恵政権は、まだ具体策を提示できていないが、極めて急を要する事態になっている。
(文=林秀英/ジャーナリスト)