10月6日の東京株式市場。富士通の株価は前日比46.5円(8.6%)高の584.7円まで上昇し、1月13日以来およそ9カ月ぶりの高値を付けた。同月6日付の各紙が「中国レノボ・グループが富士通のパソコン事業を傘下に収める方針を固めた」と報じたからだ。採算が悪化しているパソコン事業を切り離すことで、利益改善につながると期待した買いが集まった。
富士通は不振のパソコン事業を立て直すため、世界最大手の中国レノボ・グループと合弁会社をつくって事業を統合する。合弁会社はレノボ側が過半を出資。富士通のブランド「FMV」を生産し、福島、島根両県の工場や従業員の雇用は維持する考え。早ければ同月内の合意を目指すという。
レノボは2005年に米IBMのパソコン事業を買収し、中国から世界市場に打って出た。11年にNECと合弁会社のNECレノボを設立し、日本に進出した。15年の国内出荷台数のシェアはNECレノボが27.1%で首位。2位が富士通の17.2%、3位が東芝の13.1%(MM総研調べ)。富士通のパソコン事業を傘下に収めると、単純計算で日本市場の44.3%をレノボ・グループが握ることになる。
東芝、富士通、VAIOの3社のパソコン統合交渉が決裂
今年4月、東芝、富士通、ソニーから独立したVAIOの3社によるパソコン事業の統合交渉が決裂した。パソコン3社統合の話は昨年末頃から交渉が本格化。当初は今年2月の基本合意を目指していたが、交渉が難航し当面の期限を6月に延長して交渉を続けてきた。
VAIOの親会社である投資ファンド、日本産業パートナーズ(JIP)を中心として、東芝、富士通も出資する持ち株会社の傘下に3社の事業会社を置き、それぞれのブランドは維持する線で検討されてきた。
3社統合が実現すれば、国内シェアはNECレノボを抜いて首位になると期待されていたが、各社が持つ生産拠点の統廃合などについて妥協が成立しなかった。また、統合後の人員削減などの協議も難航した。スマートフォン(スマホ)の普及で、今後もパソコンの需要は大きく伸びないことが予想され、数年間は統合効果でひと息つけたとしても、その後の成長戦略を描けなかったのが要因だ。
「成長戦略の検討結果などを踏まえてJIPが離脱の意向を示したとみられる。東芝や富士通は不振のパソコン事業の切り離しを模索していたが、持ち株会社の株式の大半を持つ予定だったJIPが手を引いたことで交渉が行き詰まった模様だ」(4月18日付朝日新聞電子版)
富士通はパソコン事業をJIPに押しつけて逃げ切りをはかったが、これが頓挫したかたちだ。