政府は2020年の東京オリンピックに向けて、市街地等の幹線道路の無電柱化率を20%にまで引き上げる目標を打ち出している。しかしながら、周囲を見回してみても一向に無電柱化が進んでいる実感はない。果たして、無電柱化の現状はどのようになっているのだろうか。
無電柱化、特に電線を地中に埋め込む地中線は、さまざまな面で現在の電柱による架空線よりもメリットがあるとされる。市街地の景観が良くなる点はもちろん、電力供給における支障の発生も架空線に比べ地中線のほうが発生率は低い。特にメリットがあるといわれているのが災害時だ。
国土交通省によると、1995年の阪神・淡路大震災では、電柱8000本以上が、2011年の東日本大震災でも電柱5万6000本以上が被害を受けた。もし、これが地中線であった場合には、供給に支障を起こす被害は、阪神・淡路大震災で80分の1、東日本大震災では25分の1で済んだと推計されている。
その上、無電柱化は電柱の倒壊という危険性がなくなり、加えて、倒壊した電柱が道路等を塞いで交通の障害になることもなく、災害時の避難経路の確保にもつながり、さらには救援物資の輸送等の障害を取り除くことにもつながる。
では、日本の無電柱化はどの程度進んでいるのだろうか。国土交通省によると、12年度末までに無電柱化が済んでいる道路は全国で約9000kmとなっており、これは諸外国に比べると非常に遅れている。特にヨーロッパの中心都市は、たとえばロンドンもパリも無電柱化率は100%なのに対して、東京23区は7%でしかない。比較的に無電柱化が進んでいる東京23区でもこの程度なのだから、そのほかの地域は推して知るべしだろう。全国では1%程度でしかない。
無電柱化が進まない理由
遅々として無電柱化が進まないのには、いくつかの理由がある。
第1は、地中線にするのに「電線共同溝方式」で行った場合、土木工事と電気工事で道路1km当たり4億円以上が必要となる。これが電柱なら2000万円程度で済んでしまう。実に20倍もコストの差があるのだ。
次に、このコストを誰が負担するのかという問題がある。国、自治体、建設業者、土地所有者などいくつかの費用負担パターンがあるものの、それぞれにさまざまな条件があるため、いずれも“切り札”とはいえない状況だ。