9月28日の石油輸出国機構(OPEC)の臨時総会以降、世界の原油価格の代表的な指標であるウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)原油先物価格は一時、安定した展開となった。10月19日には1バレルあたり51.93ドルをつけた。しかし、そうした展開は長くは続かず、減産合意の行方をめぐって、再び不安定な展開になっている。
一方、世界の金融市場では、米国や英国の金融政策、米国の大統領選挙に関する動向が注目を集めた。今のところ、原油価格の動向への注目はそれほど高くはない。だからといって、原油価格の動向は軽視できない。米国の政治動向が投資家を神経質にさせるなか、原油価格の動向が追加的に先行き懸念を高め、市場混乱の一因になる可能性がある。
原油価格は、需給の動向に影響されやすい。基本的に、中国の経済成長率の低下を中心に、需要は低調だ。一方、供給圧力は強い。米国ではリグ(石油掘削装置)の稼働数が増えている。OPEC加盟国、非加盟国の動向を見ても、減産への反発は強い。どの国も、低価格の状況で減産を進めて実入りを減らすより、シェアを維持して収入を確保したいはずだ。11月末のOPEC総会で減産への合意が形成されるのは容易ではなく、原油価格は不安定に推移しやすい。
原油価格下落の主な背景
2008年、中国政府は4兆元(当時の邦貨換算額で60兆円程度)の経済刺激策を発表した。リーマン・ショック後、各国の景況感が急速に悪化し金融市場も混乱するなかで、この経済対策はインフラ開発などへの期待を高め、世界経済の回復を支える原動力となった。実際、09年1-3月期を境に中国経済はV字回復を遂げ、10年1-3月期のGDP成長率は12%を超えた。この動きに支えられ、原油、鉄鉱石、銅などの資源(コモディティ)の価格も大きく上昇し、一時は資源バブルというほどの相場高騰が進んだ。この熱気に浸って、多くの新興国、資源国の景気は過熱気味に推移した。
しかし、いつか需要は飽和する。中国の経済刺激策は世界の景況感を一時的に改善させたが、財政出動が一巡すると徐々に回復のペースは鈍化した。11年半ば以降、中国の経済成長率は低下し、新興国や資源国にも減速懸念が広がった。こうして中国などの過剰な生産能力の問題が出現し、世界的に需給関係は悪化した。先行きの不透明感が高まるなか、米国の量的金融緩和と緩やかな景気回復が世界経済を支えた。米国の景気回復が進むにつれ連邦準備理事会(FRB)は徐々に金融政策の正常化をめざした。13年5月には早期の量的緩和縮小への懸念が高まり、中国をはじめ新興国の金融市場は大いに荒れた。この段階では、米国経済の基調に大きな変化がないことや、ゆくゆくは産油国が減産に踏み切るとの期待があったため、原油価格が大きく崩れることはなかった。