9日、TPP(環太平洋経済連携協定)関連法案が野党の反対を押し切り賛成多数で可決され、成立した。これで日本はTPPを批准したことになる。しかし、米国のトランプ次期大統領がTPP離脱を明言しており、TPPが発効する見通しはない。TPPは、域内12カ国全体の国内総生産(GDP)の85%を超える、6カ国以上の承認がなければ発効されない規定となっている。米国は同60%を占めており、米国がTPPを承認しない限りTPPは発効しないのである。
では、このトランプ次期政権との日米FTAで、日本はどうなるのであろうか。それを考える上で重要なことは、トランプ次期政権がTPPは最悪な貿易協定であるとし、TPPではなく二国間自由貿易協定で米国の国益を最大限にするとしている点である。日本は、トランプ新政権の誕生によって、日米FTA交渉に直面することになる。
日米間の貿易では、米国としては小麦、トウモロコシ、大豆、牛肉、豚肉、コメなどの戦略的農畜産物輸出と、自動車、トラック、自動車部品などの輸入が基幹的貿易関係となっている。米国の国益を最大限にするならば、トランプ次期政権はTPPで約束した以上の農畜産物の輸出拡大と、それを担保するための日本の重要農畜産物にかけられている高関税率の引き下げ、さらに自動車、トラックおよび自動車部品ではTPPに定められた関税率の引き下げ撤回を要求してくることになる。
このことは、日本にとっては牛肉、豚肉、コメの関税撤廃を求められ、日本のコメ生産、牛肉や豚肉の畜産生産が深刻な打撃を受けることになるであろう。それは、日本の農・農村の存立を大きく脅かし、食料自給率のさらなる低下、水田などの耕地荒廃の進展で、国土の保全にも脅威を与えることになるであろう。
食の安全やサービスにも大きな脅威
問題は、それだけではない。日本の食の安全やサービスにも大きな脅威となるのである。米国通商代表部は、毎年「外国貿易障壁報告書」を出している。ここで米国政府は、貿易相手国の関税および非関税障壁を絶えずチェックし、その障壁の撤廃を相手国政府に求め続けている。それは当然、日米FTAのような貿易交渉で要求されるものである。2016年の同報告書(出典:16年4月衆議院調査局農林水産調査室)で日本について見てみる。
(1)食品添加物
「日本の食品添加物の規制は、いくつもの米国食品、特に加工食品の輸入を制限している。米国および他の市場で広く使用されている数多くの添加物が、日本では認可されていない」
(2)収穫前・収穫後に使用される防カビ剤
「日本は、収穫前に使用される防カビ剤を農薬に、収穫後に使用される防カビ剤を食品添加物に分類している。(略)それは、さまざまなかたちで米国の生産者に影響を与える。(略)米国は、また、日本が、収穫後の防カビ剤で処理された製品について、各化学物質の記載や販売時にこの種の処理がされたことを示す文言の表示の義務を課すことを憂慮しており、これらは、当該製品についての需要を阻害する」